介護現場のICT化とは?具体的な事例や導入率をチェックしよう

近年、介護現場でも「ICTの導入」が積極的に行われています。ICTとは、「インターネットなどのIT技術を使って、人々の暮らしを豊かにしていく活用方法」のこと。身近なところでは、ネット通販やメールを使ったコミュニケーションなどもICT活用事例の1つです。この記事では、介護現場ではICTがどのように活用されているのか、導入による加算の有無や今後の課題などについて紹介していきます。介護業界で働く方は、ぜひご一読くださいね。

介護現場におけるICTとは?

介護職の方の中には、「介護記録をタブレット端末に入力して報告するようになった」という方もいるのではないでしょうか?「介護記録とシフト機能などが同じ端末上で確認でき、職員間での情報共有がしやすくなった」という方もいるかもしれません。身近なところでは、こうした変化も介護現場におけるICT化です。

このほかにも、「見守りシステム」の導入を行う施設もあります。介護現場では、1人の職員が複数の利用者さんの様子をチェックすることも少なくありません。別の業務を行いながら、利用者さんの在室状況を把握するのは大変です。見守りシステムを導入すれば、利用者さんの在室状況を、センサーを通して知ることができます。

このほかにも、排泄のタイミングを予測して通知を送る「排泄予知器具」、職員へ同時に一斉通話が行える「インカム機器」なども、ICT活用の事例です。これまでは細部まで気を配らなければならなかった業務を、テクノロジーの力で補っています

このようにICT化が介護現場で推進される目的は、働く方の負担軽減や、介護サービスの生産性向上とされています。

介護現場でのICT導入率

介護現場のICT化は、厚生労働省が主導して行っている取り組みです。2016年度には厚生労働省委託事業にて「居宅サービス事業におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」も作成され、取り組みの周知もスタートしました。以降、介護現場でのICT導入率は次のように変化しています。

ICT導入事業所は大幅に増加!自治体の支援事業も全国へ拡充予定

出典:厚生労働省「介護現場におけるICTの利用促進」

上記の図でもわかるように、ICT導入の条件を満たした介護事業所や企業に助成金を支給する「ICT導入支援事業」を行う自治体が増えています。2019年度には15県だったものが、2020年度には40都道府県に増え、2021年度には47都道府県すべてで実施予定です。

ICT導入支援事業の助成を受けた介護事業所は、2020年度までに全国で2,569事業所に増えました。前年度は195事業所だったことを見ると、大幅に増加していることがわかるでしょう。今後も介護現場でのICT導入は、さらに進むことが予測されます。

介護現場でのICT導入と加算について

ここからは、ICTを導入した場合の介護報酬の加算について見ていきましょう。

「夜勤職員配置加算」などICT導入で緩和される仕組みも

ICTの導入は、介護報酬でも評価され始めている取り組みです。2021年度に改定された介護報酬制度では、特別養護老人ホームなどで見守りシステムを導入した場合、「夜勤職員配置加算」の要件が次のように見直されています。

改定前特養および短期入所生活介護の利用者さんへの見守りセンサー導入割合15%以上の場合、夜勤職員は最低基準+「0.9人」の人員を配置
改定後特養および短期入所生活介護の利用者さんへの見守りセンサー導入割合10%以上の場合、夜勤職員の最低基準+「0.6人」の人員を配置

すべての入居者さんに対し見守りシステムを導入するなどの要件を満たしている施設には、夜間の人員配置基準を緩和する措置もとられました。

ICT導入により人員配置の緩和が行われている

夜勤職員配置加算のほかにも、特養の「日常生活継続支援加算」や、介護つき有料老人ホームなどへの「入居継続支援加算」も、ICT導入により人員配置基準が変化しました。見守りシステムやインカムなど、ICT化に伴う複数の機器を活用した場合、これまでは6対1以上だった介護福祉士の配置要件が7対1以上に緩和されています。

介護現場でのICT活用は、働く方の負担軽減はもちろん、人材不足に悩む事業所にとっても有益な取り組みとなっていることが見てとれるでしょう。

ICTを導入する運用ルールは厳しい?導入の課題とは?

介護現場にICTを導入するメリットは大きなものですが、運用ルールの厳しさから新たな課題なども見えてきています。ここからは、ICT導入の運用ルールと課題について見ていきましょう。

全居室設置・全介護職員の使用が条件となる機器も

ICT導入による介護報酬の加算を目指す場合、「見守り機器」「インカム」「記録ソフト等」の3つの導入が欠かせません。このうち、見守り機器はすべての居室に設置、インカムも全職員が使用することが条件となります。利用者さんに正しいケアが行われているかの評価や人員体制の見直しを、継続して行うことも必要です。

また、ICT機器を導入して3ヶ月以上経ったら、実際のケアにあたる他職種の職員が参画して「見守り機器等活用委員会」を開催。ケアの質や安全体制が適切であるか、職員の負担が軽減されているかなどの確認を行い、届出を行う必要があります。介護報酬の加算を目指したい事業所の中には、こうした運用ルールを厳しいと感じるところもあるかもしれません。

導入コストやセキュリティ対策などが課題に

介護現場でのICT活用の課題には、導入コストの高さが挙げられます。初期費用の高さを導入のデメリットとする事業所も少なくありません。また、介護職の中には、パソコンやタブレット端末などのデジタル機器に苦手意識がある方もいます。こうした方への研修やサポートも、ICT導入には欠かせません。

一方で、「実際に使ってみるまでは苦手意識があったけれど、慣れてしまうと手放せなくなった」という声もあります。スマートフォンのように、感覚的に使える機器も増えているため、介護職の方にとってはICT化がポジティブに働くほうが多いといえそうです。

ただし、紙での記録と比べて情報漏洩のリスクは高いため、ICTを導入した場合にはセキュリティの意識をもつことも大切。課題点を意識しながらうまくICTを活用することができれば、業務効率を高めていくことができるでしょう。

介護現場のICT化によって働き手の負担は軽減する

IT機器などを使って、人々の暮らしを豊かにする活用方法がICTです。人材不足が課題とされる介護現場でもICTを活用することで、働き手の負担を軽減する取り組みが活発に行われています。少子高齢化は今後も進行するため、さらにICTを導入する事業所は増えていくでしょう。介護業界で働く方は、ぜひICT化にも注目してみてはいかがでしょうか。

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