ノーリフティングケアとは?取り組むべきメリットや活用事例

身体的な負担が大きいことから、これまでは「介護職に腰痛がつきもの」という考えがありました。しかし、今こうした考え方が根本から見直されはじめています。キーワードは「ノーリフティングケア」。利用者さんを持ち上げずに介護することで、双方の安全を守るケア方法として注目されています。この記事では、そんなノーリフティングケアについて解説。2021年4月に介護報酬の加算に加えられたことや具体例も交えながら、くわしく見ていきます。

【簡単に解説】ノーリフティングケアとは?

「ノーリフティングケア」とは、利用者さんを持ち上げたり抱きかかえたりせずに行うケア方法のことです。これまでのように人の力に頼った移乗を行わず、利用者さんの自立度に合わせて福祉用具などを活用していきます。

ノーリフティングケアの考え方は、1998年にオーストラリアで確立したものです。日本でも2013年に厚生労働省が公表した「職場における腰痛予防対策指針」の改定で、「原則として人力による人の抱き上げは行わせない」と明示されました。

この指針で示される通り、人力での人の抱き上げは原則として禁止されているのです。これにより、ノーリフティングケアに取り組む施設は増え始めました。

介護職の腰痛を予防するノーリフティングケア

ノーリフティングケアが求められる背景には、医療や介護従事者の深刻な腰痛問題があります。

厚生労働省が2020年に公表した「業務上疾病発生状況」によると、保健衛生業の負傷に起因する疾病は2,090件。そのうち、1,944件は腰痛が原因だったといいます。この数字は、製造業や建設業など20以上ある業種の中で最も高い数値です。中には、腰痛によって離職せざる負えないケースも。

こうした背景により、医療や介護従事者の負担を軽減するため、厚生労働省が主導となりノーリフティングケアの取り組みが推進され続けています。

2021年4月から介護報酬の加算対象に

ノーリフティングケアは、2021年4月の介護報酬改定にて、加算対象に加えられたことでも注目されています。該当するのは「特定処遇改善加算」。この加算では、以下の6区分で各1つ以上の取り組みを行うことが求められています。

  • 入職促進に向けた取組
  • 資質の向上やキャリアアップに向けた支援
  • 両立支援・多様な働き方の推進
  • 腰痛を含む心身の健康管理
  • 生産性向上のための業務改善の取組
  • やりがい・働き外の醸成

1区分に4つの具体的な内容が示されており、「それぞれの区分で1つ以上取り組めば加算対象になる」というものです。このうちノーリフティングケアは、「腰痛を含む心身の健康管理」の区分に加えられました。

なお、2021年3月までの特定処遇改善加算は3区分。「資質の向上」と「労働環境・処遇の改善」、「その他」だったため、今回の改定ではより取り組むべき内容が明確になったことがわかります。こうした変化から、今後はノーリフティングケアに取り組む施設の増加が期待できるでしょう。

ノーリフティングケアのメリットとは?

ここからは、ノーリフティングケアのメリットについて見ていきましょう。

介護職の身体的な負担が軽くなり長く働ける

ノーリフティングケアを介護に取り入れると、腰痛をはじめとした介護職の身体的な負担が軽減します。電動ベッドやリフトなどの福祉用具をうまく活用した介護を行うことで、介護者の負担を軽減しながら質の高いケアを行うことが可能です。

また、1人の利用者さんに必要な介助人数を減らすことにもつながるため、余裕も生まれやすいといいます。ノーリフティングケアが定着すれば、腰痛などの身体的な理由から離職することなく、長く働くことができるでしょう。

利用者さんの負担も軽減される

人の力を使った抱え上げは、利用者さんにとっても負担が大きいものです。持ち上げられる恐怖や痛みを感じる方もいます。中には緊張で体がこわばり、筋肉や関節が固まってしまうケースも。ノーリフティングケアを介護で取り入れることは、利用者さんの負担軽減や精神的な安定にもつながります

また、利用者さん自身が自力で動かせる機能を適切に活用することで、自立を妨げないことにもつながるでしょう。

どんな活用法がある?ノーリフティングケアの事例

ここからは、ノーリフティングケアの事例を見ていきましょう。

電動ベッドの機能を活用した事例

ノーリフティングケアを行っている施設では、腰痛に対する意識が大きく変わったという事例も見られます。

たとえば、利用者さんの起き上がりをサポートする際、ベッドがフラットな状態だと、介護スタッフの腰に大きな負担がかかるものです。そこで電動ベッドを使い、介助しやすい角度まで利用者さんの体を起こすことで負担を軽減。介護スタッフの腰痛予防へとつなげていきます。

機器を使う手間を感じていた介護スタッフでも、利便性や効果を感じたことで気持ちが変化。利用者さんに合わせた福祉用具を適切に使用する意識に変わったといいます。

ボードやリフトを活用した事例

スライディングボードや介護リフトが、利用者さんの自立を促した事例もあります。これらの機器を活用する施設では、無理な抱え上げがなくなったことで、利用者さんの筋肉の緊張やこわばりが軽減。以前よりも四肢の可動域が広くなり、筋力が改善した利用者さんもいるといいます。

スライディングボードの活用により、利用者さん自身での車いすからの移乗が楽になったというケースもありました。

スタンディングリフトを活用した事例

立ち上がりをサポートする、スタンディングリフトの活用により、トイレでの排泄が可能になったという事例もあります。スタンディングリフトは安定しているため、2~3人で行っていたトイレ介助を1人で行えるようになったという声も。

機器があれば介護スタッフも離れられるため、ゆっくり排泄できる利用者さんも増えたといいます。

ノーリフティングケアは双方の負担を軽減する!

人力での無理な持ち上げや抱え上げを行わない、ノーリフティングケアは、日本でも注目されている取り組みです。2021年4月の介護報酬改定では加算項目にも加えられたため、今後導入する施設がより増えていくでしょう。介護職の方の身体的負担を軽減することはもちろん、利用者さんの不安感や恐怖心を和らげる効果も期待できます。ぜひこの機会に、ノーリフティングケアについて理解を深めてみてはいかがでしょうか。

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