口腔機能向上加算の算定要件とは?(Ⅰ)と(Ⅱ)の違いも解説
口腔機能の管理は、若い方はもちろん高齢の方にとって大切です。口腔機能が低下すると、食事や会話、呼吸などに支障がでることも。口腔機能の低下を防ぐため、また機能低下を改善する目的から「口腔機能向上加算」が設けられました。しかし、実際には算定実績が少ないという面もあります。そこで今回は、口腔機能向上加算の概要や算定要件を中心に、算定が進まない理由などについても見ていきましょう。
口腔機能向上加算とは?
まずは、口腔機能向上加算の概要や口腔ケアが必要とされる理由について紹介します。
口腔機能向上加算の概要
口腔機能向上加算は、口腔機能が低下した利用者さんや、今後機能低下する可能性が高い利用者さんに対し、口腔機能向上サービスを提供した際に算定できる加算です。口腔機能向上加算を利用することで、口腔機能低下を理由とした要介護状態や要支援状態の悪化を防ぐためのサービスを、介護保険を使って提供できます。
口腔機能向上加算にて行われる口腔ケアは主に以下の通りです。
- 口腔内の掃除
- 口腔機能訓練
これらは利用者さんの生活の質を維持し、低下させないために必要なケアなのです。
なぜ高齢者に口腔ケアが必要なのか
高齢者の主な死因のひとつに「肺炎」が挙げられますが、その中でも多いのが「誤嚥性肺炎」といわれています。嚥下機能が低下することで、食べ物や口の中の細菌を含む唾液が気管に入って肺炎を起こすのです。誤嚥性肺炎を防ぐために、舌や頬の筋肉を鍛えるケアが重要といえるでしょう。
また高齢者は、入れ歯や柔らかい食事の影響で噛む力が衰えるために、唾液の分泌量が低下します。口の中が乾燥する原因になり、乾燥によって口の中の粘膜に傷がつくと、そこから細菌が侵入して動脈硬化を引き起こすことも。
そのため、口臭の原因やその他の病気との関係も深い歯周病や虫歯、舌苔などをきれいにして、健康を維持し、食事を自分の歯で食べられるようにすることなどを目的にしています。
口腔機能向上加算の算定要件について
次に、口腔機能向上加算の算定要件について見ていきましょう。
対象となる介護サービスと単位数
対象となる介護サービスと単位数を表でまとめました。
対象の 介護サービス | 通所介護 通所リハビリテーション 介護予防通所リハビリテーション 地域密着型通所介護 認知症対応型通所介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 介護予防認知症対応型通所介護 |
単位数 | (Ⅰ)150単位/回(月2回を限度) (Ⅱ)160単位/回(月2回を限度) ※要支援者は月1回、要介護者は月2回まで | (Ⅰ)150単位/月 (Ⅱ)160単位/月 |
単位数には、(Ⅰ)と(Ⅱ)があります。(Ⅱ)は、2021年の介護報酬改定で新しく設けられ、(Ⅰ)と(Ⅱ)を併用して算定することはできません。
(Ⅱ)を利用する場合は、科学的介護情報システム「LIFE」に利用者さんの口腔機能情報を提供し、LIFEからのフィードバックをもとに口腔機能向上ケアを改善するという仕組みを構築する必要があります。
口腔機能向上加算の対象者
口腔機能向上加算の前提条件として、事業所内で評価やアセスメントを実施し、地域包括支援センターやケアマネジャーのケアマネジメントを通じてケアプランに明記してもらう必要があります。また、利用者さんの同意も必要です。
具体的な口腔機能向上加算の対象者は以下の通りです。
- 認定調査票の「嚥下」「食事摂取」「口腔掃除」の3項目のいずれかで、見守りや一部介助、全介助を必要とする
- 基本チェックリストの口腔機能に関連する13.14.15 .の3項目のうち2項目以上が「1.はい」に該当する
13.半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか?
14.お茶や汁物などでむせることがありますか?
15.口の乾きが気になりますか?
- その他口腔機能が低下している、またはそのおそれがある
上記に該当する方であっても、口腔機能向上加算対象外になるケースがあります。次では、対象外の利用者さんについて見ていきましょう。
算定対象外になる利用者さんとは
以下の項目のいずれかに該当する利用者さんは、口腔機能向上加算対象外になるため、注意してください。
- 医療保険の歯科診療報酬点数表にある摂食機能療法を算定している
- 複数の事業所を利用し、他の事業所で口腔機能向上加算を算定している
- 口腔機能向上加算算定に同意を得られていない
摂食機能療法とは、摂食機能障害である利用者さんが、歯科医師もしくは歯科医師の指示によって言語聴覚士などが1回30分以上の訓練指導を行うことです。医療保険にて算定された場合は、口腔機能向上加算は算定されません。
以前は、虫歯や入れ歯の治療などのために歯科を受診している場合、口腔機能向上加算は算定されませんでした。2009年4月以降は、歯科を受診していても上記の歯科診療報酬点数表にある摂食機能療法を算定していなければ、口腔機能向上加算を算定できます。
口腔機能向上加算の算定要件
ここでは、口腔機能向上加算における(Ⅰ)と(Ⅱ)の算定要件を見ていきましょう。厚生労働省によると、口腔機能向上加算のサービスを提供するためには、算定要件を満たす必要があります。
(Ⅰ)
- 言語聴覚士、歯科衛生士または看護職員を1名以上配置していること
- 利用者の口腔機能を利用開始時に把握して、言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員、介護職員、生活相談員、その他の職種の者が共同して利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画を作成していること
- 口腔機能改善管理指導計画に従い、言語聴覚士、歯科衛生士または看護職員が口腔機能向上サービスを行い、利用者の口腔機能を定期的に記録していること
- 利用者ごとの口腔機能改善管理指導計画の進捗状況を定期的に評価すること
(Ⅱ)
- 口腔機能向上加算(Ⅰ)の要件を満たすこと
- LIFEに口腔機能の情報提供を行うこと
- LIFEへの提出情報やフィードバック情報を活用して、ケア方法を改善しサービスの質を管理していること
要介護者の口腔管理は必要だが算定実績は少ない
高齢者である利用者さんの口腔管理は、とても大切な役割があります。しかし、算定実績は少ないのが現状です。なぜ口腔機能向上加算の算定が進まないのでしょうか。
要介護者の口腔管理の必要性
2019年に日本歯科医学会が発表した「フレイルおよび認知症と口腔健康の関係に焦点化した人生100年時代を見据えた歯科治療指針作成に関する研究」では、要介護の高齢者のうち、歯科医療や口腔管理が必要な高齢者は64.3%でした。
しかし、そのうち過去1年以内に歯科を受診し治療していたのは、わずか2.4%です。前述した話とこの調査でもわかるように、口腔管理の必要性が浸透していないといえるでしょう。
口腔機能向上加算の算定が進まない理由
2018年度に老人保健健康増進等事業が発表した「通所サービス利用者等の口腔の健康管理及び栄養管理の充実に関する調査研究事業報告書」によると、通所サービス事業所で口腔機能向上加算を算定する事業所は12%ほどという結果が明らかになりました。
算定が進まない主な理由は以下の通りです。
- 口腔機能向上加算が必要な利用者さんの把握が難しい
- 利用者さんや利用者さんの家族から同意を得られにくい
- 算定を支援してくれる歯科医療機関がない
歯科専門職が在籍していないために、利用者さんやその家族に必要性をうまく説明できないという面もあるようです。利用者さんの理解が得られるような体制づくりも課題といえるでしょう。
口腔機能向上に対する意識改革が必要
口腔機能向上加算は、利用者さんの健康にとって大切かつ有益な制度といえます。しかしまだ利用が進んでいないのが現状です。利用者さんの立場で考えると、介護保険を利用するのであれば、優先順位の高い事柄に使いたいと思うでしょう。介護スタッフが口腔機能向上加算の算定要件を理解し、利用者さんや利用者さんの家族に、口腔機能向上がどうして必要なのかの説明を丁寧に行わなければ、なかなか理解してもらえないはずです。説明会を行うなど、少しずつ意識改革をすると良いでしょう。また、事業所としては人材不足を解消したり、事務処理の勉強会をしたりするなど、口腔機能向上加算に取り組めるような環境整備も必要です。