高齢者の骨折が怖い理由って?介護職が知っておきたい予防策
高齢者の骨折は、介護の現場では身近なリスクのひとつでしょう。加齢によって骨がもろくなる方が多いため、日常のささいな衝撃やつまずきでも骨折してしまうことがあります。介護スタッフの中には、利用者さんが骨折した際に上手く対応できなかった経験のある方も多いのではないでしょうか。今回は高齢者の骨折の原因や骨折後の症状、予防策についてまとめました。高齢者の骨折の危険性について、しっかりと学んでおきましょう。
目次
70代から急増?高齢者が骨折しやすい原因
高齢者、特に70歳以降になると急増するといわれている骨折には、次の3つの原因があるとされています。
筋力低下によって転倒しやすくなる
筋肉量は加齢とともに減少し、70歳を過ぎる頃には20代のおよそ4割まで減ってしまうといわれています。さらに、運動不足も筋力低下を加速させる原因のひとつです。
皮下脂肪の減少によって転倒時の衝撃を受けやすくなる
転倒時、皮下脂肪や皮膚を形成する皮下組織は、骨を守るクッションとして機能します。しかし、これらは加齢とともに減少してしまうため、衝撃が骨へダイレクトに伝わりやすくなってしまうのです。
骨粗しょう症で骨の強度が落ちている
骨量が減少することで骨がもろくなる骨粗しょう症は、加齢とともに増加する疾患です。年代別で見ると60代から増え始め、70代になると2人に1人の割合で罹患しているというデータも。症状が出ているにもかかわらず治療を受けないことも多く、骨折を繰り返す方もいるようです。
骨粗しょう症は骨折以外に、背中や腰が大きく曲がってしまう「老人性円背」を引き起こすこともあります。こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
高齢者が骨折しやすい部位は?
高齢者の骨折が起こりやすいのは、次のような部位です。
足の付け根(大腿骨近位部骨折)
太ももの骨(大腿骨)の足の付け根に近い部分の骨折です。転倒して尻もちをついたときに発生しやすいといわれています。
大腿骨を骨折してしまうと激痛で移動もままならないため、救急車で病院に搬送されることになるでしょう。特に関節の外側が折れた場合(外側骨折)だと出血も伴うため、早急な処置をしなくてはなりません。ただ、骨折の程度によっては折れていても普通に歩ける方もいるため、注意が必要です。
胸から腰にかけての背骨(脊椎椎体骨折)
骨の強度が低下し、積み重なった背骨(円盤状の骨)がつぶれることで起こります。高齢者の場合には、ささいな動作でも簡単に折れてしまうことがあるため、注意が必要です。
骨折直後は強い痛みを伴いますが、安静にすることで徐々に快方に向かいます。ただ骨粗しょう症が進んでいる場合には、骨折から何ヶ月も経過してから足のしびれや痛み、動きにくさなどの症状が出ることもあるようです。
腕の付け根(上腕骨頚部骨折)
腕の付け根(肩部分)の骨折です。転倒時に肩を強打したり、手や肘をついたりした場合に起こりやすくなります。上腕骨頚部骨折は激痛を伴い、肩を動かすことができません。場合によっては、脱臼や手のしびれを併発することもあります。
手首(橈骨遠位端骨折)
腕の付け根の骨折と同様に、転倒して手をついたときに折れやすい部分です。骨折時には手首の痛みや腫れがありますが、程度によってはあまり症状が出ず、打撲や捻挫と間違われることも。利用者さんが「手に力が入らない」「手のひらの感覚に違和感がある」といった症状を訴えていた場合には骨折の可能性を考えてみましょう。
高齢者の骨折の治療方法
高齢者の骨折の治療方法には、主に「手術療法」と「保存療法」の2つがあります。
手術療法
手術によって、骨折部位にネジや金属などを挿入して固定したり、折れた骨を人工物に入れ替えたりする方法です。高齢者だと手術による身体的負担に耐えられない場合もあるため、健康状態が良好であることが治療の条件になります。
保存療法
手術をせず、骨折が治るまで数週間から数ヶ月間、安静にする方法です。骨折部位の状態が安定していて折れた骨がくっつく可能性が高い場合や、手術が難しい健康状態の場合には、保存療法が選択されます。
しかし、高齢者の骨折では、長期間にわたって安静にすることが筋力低下や認知症など別の症状につながることも少なくありません。そのため、可能な範囲で手術療法に切り替え、早期にリハビリが開始できるよう努めることが重要です。
高齢者の骨折予防に効果的な方法
高齢者の生活には、常に骨折のリスクが伴います。介護職はそのことをよく理解し、次のような予防策を実践してみましょう。
転倒しにくい環境の整備
利用者さんの身の回りに危険なところがないか、丁寧にチェックしましょう。
例えば、次のような場所は注意が必要です。
- つまずきやすい段差がある
- 視界が悪い
- 滑りやすい
- 手すりなどのつかまるものがない
- 足元に電気コードなどがある
見慣れた場所だとスタッフも利用者さん本人も安全だと思い込んでしまいやすくなります。そういう場所こそ「危険かもしれない…」と疑ってみてください。
適度な運動
筋力低下を防ぎ、転倒リスクを下げるためには日常的な運動が欠かせません。また、日光によって体内にビタミンDが生成されると、骨の健康維持にもつながります。
熱中症リスクが高まる暑い日には、室内で階段を上り下りするだけで十分です。身体的な事情から運動が難しい方は、日光浴だけでもいいでしょう。負担に感じることのないよう、利用者さんのペースに合わせた運動を提案してみてください。
栄養バランスのいい食事
高齢者の骨折を引き起こす骨粗しょう症を予防するためには、食事と運動が大切といわれています。特に、骨をつくるカルシウムは積極的に摂取したい成分。あわせて、カルシウムの吸収を助けるビタミンD・ビタミンKも摂れるような食事が理想です。
おすすめの食材としては、
- カルシウムを多く含む:牛乳・小魚・大豆・小松菜・ひじきなど
- ビタミンDを多く含む:青魚・キノコなど
- ビタミンKを多く含む:納豆・レバー・モロヘイヤなど
日々の食事から摂取できるよう、施設の献立も工夫してみましょう。
高齢者の骨折は寝たきりになるリスクも…
高齢者の骨折が怖い理由は、骨折によって要介護や寝たきりの状態になる方が多くいるからです。手術によって骨折前と同じ生活が送れるようになる方もいますが、身体的負担の大きさから手術を断念せざるを得ず、日常生活が難しくなるケースも少なくありません。
高齢者の方が長く自立した生活を送るためには、骨折を予防することが何よりも重要なのです。
高齢者の健康のためには骨折予防の習慣化が大切!
高齢者の骨折は、軽い転倒やつまずきなど、日常のささいなことが原因となることも多いです。そして、介護なしで自立した生活を送れていた利用者さんが、骨折によって急に寝たきりになることも少なくありません。だからこそ日頃から骨折の危険性を意識し、予防することが大切です。介護職はそのことをよく理解し、利用者さんの健康を守れるよう正しい知識を身につけておきましょう。