おしゃれな美容サービスを施設でも!訪問美容師さんのやりがいとは?
私たちが普段何気なく行っている美容院ですが、病気や障害、加齢などが原因で気軽に美容院に出かけられない方もいます。そんな方のために、自宅や介護施設などを訪問して施術を行うのが「訪問美容師」。桑田奈保子さんは広島市を中心に活躍する訪問美容師で、出張理美容サービス「ハーブヘア」の代表です。ただ髪をカットするだけではない、おしゃれな空間づくりにもこだわった独自のスタイルで知られる桑田さんの話を聞きました。
※インタビューのため一時的にマスクを外しています。
※インタビュー実施日:2022年9月
「しあわせづくり株式会社」(広島市安佐南区)代表。美容師資格を活かし、2010年から訪問理美容事業「ハーブヘア」をスタート。他にも訪問リラクゼーションサービス「ハーブケア」や、家事代行サービス「ハーブライフ」、訪問介護事業など、幅広い分野でサービスを展開中。
桑田さんが代表を務める「ハーブヘア」は、訪問美容師による理美容サービスを主に行っています。広島市全域、東広島市、呉市、山口県東部など広範囲にわたって利用できる訪問理美容サービスです。
障害や病気、加齢など外出が困難な方のために、ご自宅・施設・病院などを訪問し、カット、シャンプー、髭剃りといった施術を行う美容師・理容師のことです。オプションでカラーやネイル、メイク、着付けなどを行っている事業所もあります。
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目次
訪問美容師になったきっかけを教えてください
(桑田さん)高校生の頃、学校交流の一環で特別支援学校を訪問したことがきっかけです。当時の私はおしゃれが大好きで、スカート丈を短くしたり、髪型を整えたりすることに夢中でした(笑)ですが、支援学校に通うほとんどの生徒さんはおかっぱや坊主頭で、大きな衝撃を受けたのです。
「同じ高校生なのに、どうして皆同じ髪型なんだろう?」と疑問に思っていると「障害があって美容院ではパニックを起こすかもしれないから、家族がカットするしかない」と教えてもらいました。そんな事情を知ったとき「何とかしたい!」「誰もが当たり前におしゃれを楽しめるようにしたい!」と強く思ったんです。
学校から帰ってすぐに近所の美容院に駆け込み「無給でいいからアルバイトさせてください!」とお願いに行きました。当時はまだ訪問美容の仕事は知りませんでしたが、その頃から必要性を強く感じていましたね。高校卒業後、美容師免許を取得し、美容院に勤務しました。10年間勤務した後、訪問理美容サービスを立ち上げ、今に至ります。
訪問美容師の仕事内容は?
(桑田さん)病院や施設、ご自宅を訪問して、シャンプー、カット、メイクなどをする仕事です。サービスを始めた当初は有料老人ホームでの施術が多く、次第に特別養護老人ホームからも依頼を受けるようになりました。今では、スタッフで手分けして毎月400以上の施設を回っています。
施術道具を運ぶ桑田さん
(桑田さん)施術道具はキャリーカートに入れて、会場まで運びます。ポータブルシャンプーセットがあるので、場所を問わず、寝たきりの方もシャンプーできるんですよ。カットとブローを入れて、お一人の所要時間は30~40分程度です。午前中に5~6人くらいは施術できますね。施設の規模によって午前中だけで終わることもあれば、昼休憩をまたいで午後も施術にあたることもあります。
(桑田さん)女性の利用者さんには、カット後にお化粧もさせてもらっています。普段お化粧をしない方が多いので、口紅を塗ったり、頬紅をさしたりするととても喜んでもらえるのはうれしいです。
寝たきりの方でもシャンプーができるポータブルシャンプーセット
(桑田さん)利用者さんの中には認知症の方もいらっしゃるので、カットしたことを忘れてしまうときがあります。そこで、毎回施術後にメッセージカードとお写真を渡すようにしています。当日のことを思い出すきっかけになりますし、ご家族にも施術の様子を知ってもらえるのが魅力です。初めてハーブヘアのサービスを受けた方からは「こんな風にカードをもらったのは初めて!」と後日お喜びの手紙をもらったこともありましたね。
訪問美容師の仕事で、いつも気を付けていることは?
きれいに飾られた鏡台スペース
(桑田さん)私たちは普段、好きなときに好きな美容院に行って、おしゃれを楽しみますよね。そんな当たり前を利用者さんにも味わってほしいと思っています。「まるで美容院に来たみたい」と思ってもらえるように、施術スペースにはピンクのかわいいカーペットを敷いて、お花を飾って、アロマを焚いて、おしゃれな空間づくりを心がけています。
施術に関していえば、スピードを意識してやることでしょうか。施術に時間がかかってしまうと、拘縮や麻痺のある方には負担がかかってしまうので。急いで雑にならないように、でも早く丁寧に仕上げる技術力は大切になっていきますね。
訪問美容師のやりがいは?
(桑田さん)施設では食堂をお借りして施術スペースを作ることが多いのですが、利用者さんがドアを開けたときに「今日は美容院の日だ!」と歓声をあげてくださるのがうれしいです。カットやメイクをするうちに、表情が明るくなって、笑顔が見られる瞬間もやりがいを感じます。
メッセージカードや写真をずっと大切に残してくれる方も多く、亡くなられた際に「ハーブヘアさんにもらった写真を遺影にしました」とご家族から聞いたときは、涙が出そうでした。
印象に残っている出来事はありますか?
施術前に希望の髪型を選ぶ利用者さん
(桑田さん)訪問美容を始めて3年目の頃、スタッフの1人が誤って90代の利用者さんを転倒させ、骨折させてしまう事故がありました。利用者さんは入院することになり、毎日スタッフと代わるがわるお見舞いに行ったのです。
もちろんご家族の方は怒っておられましたが、私たちが毎日お見舞いに行く姿を見て、次第に心を開いてくれるようになりました。ご家族も忙しく、ほとんどお見舞いに行けなかったようで、代わりに来てもらえることが安心につながったようです。
退院した後、利用者さんが「またシャンプーしてほしい」と頼んでくれたときは、うれしかったですね。数年後、その方が亡くなられたときはお葬式にも参列させていただき、今でも深く印象に残っています。
今後の目標を教えてください
ハーブヘアのスタッフさんと桑田さん(中央)
(桑田さん)事業を始めた当初はスタッフも少なかったので、体調が悪くても「私が這ってでも行かなくては」と思っていました。ですが、今は人数も増えたおかげで、働きやすい環境が整っています。訪問美容のDVD教育テキストや訪問美容に必要なグッズ販売も行っているので、人材育成も頑張っていきたいですね。
訪問美容師が増えれば施術できる利用者さんの数が増え、できることも増えていきます。利用者さんにとって選択肢が増えることにもなるでしょう。現状では施設側で訪問美容会社を決めるので、利用者さんが選べる環境ではありません。ですが、私たちが好きな美容院を選ぶように、利用者さんも訪問美容会社を選べるような世界になったらいいなと思っています。
訪問美容師に求める人材像は?
(桑田さん)施設で暮らす高齢者の方は、手入れのしやすいショートヘアを選ばれることが多いです。一般的な美容院ほどスタイルのバリエーションは多くないでしょう。そのため、いろいろな髪型がカットできることより、どんな疾患や障害の方も受け入れられる心と対応力が肝心になってきます。
訪問美容の利用者さんは、一般的な美容院のお客様とは異なり、認知症や麻痺のある方、寝たきりの方もいらっしゃいます。利用者さんが施術中に尿漏れしたときには、適切に対応しなければなりません。どんなときも、自分のおじいちゃん、おばあちゃんだと思って接する、優しさのある人に来てほしいです。
介護や障害についての基礎的な知識も必要なので、私や一部のスタッフは「介護職員初任者研修」を受講しています。訪問美容師を目指す方は、介護・障害の知識を身につけると良いですよ。
これから訪問美容師を目指したい方、興味がある方へのメッセージをお願いします
桑田さん(写真左)と事務スタッフの池田知佳子さん
(桑田さん)訪問美容師は毎日違う場所で仕事ができるのが楽しいです。町の美容院で働いていた頃も良かったですが、外に出る機会が少なく“籠の中の鳥”だったなと思います。今はいろんな施設に出向き、いろんな方と出会い、交流できることがとても面白いです。
働きやすさに関しては、土日休みが取れる点が大きいかもしれません。町の美容院は土日が稼ぎ時なので、子どもがいる方は難しいですよね。訪問美容の場合は、平日に出向くことがほとんどです。事前にスケジュールも分かっているため、シフトも組みやすいですし、夜遅くまで働くこともありません。理美容師の資格を持っている方で、子育てをきっかけに復職を諦めている方がいれば、ぜひおすすめしたいです。
桑田さんのインタビューを終えて
高校時代の出来事から訪問美容のニーズに気付き、ひたむきに道を歩んできた桑田さん。利用者さんを思いやるあたたかい気持ちがひしひしと伝わってきました。理美容師免許を持っている方であれば、研修を受けて訪問美容師として働くことも可能です。美容で介護に関わりたい、保有資格を活かしたいと思っている方は、訪問美容師を視野に入れてみてはいかがでしょうか?
【訪問美容ハーブヘア】
所在地 | 広島市安佐南区西原3丁目11-3-303 |
電話番号 | 0120-931-814 |
公式サイト | https://herb-hair.com/ |