誰もが暮らしやすい住環境を提案!福祉住環境コーディネーターのやりがいとは?
加齢で身体機能が衰えたり、病気などで身体に障害があったりすると、生活空間にも配慮が求められます。「バリアフリーの家」と聞くと、手すりや段差のない空間を思い浮かべますが、実際は一人ひとりの状況に応じた細やかな環境整備が必要になります。
「福祉住環境コーディネーター」は、高齢者や身体に障害を持つ人が暮らしやすい住環境を提案するための資格。今回は、「福祉住環境コーディネーター2級」の資格を持ち、住宅会社に勤務する槇田綾子さんに、仕事のやりがいや魅力を聞きました。老いを迎えたとき、生活環境にはどのような工夫が必要なのでしょうか?介護・医療現場で働く方にも役立つ資格なので、ぜひ読んでみてくださいね。
※インタビューのため一時的にマスクを外しています。
※インタビュー実施日:2022年9月
幼稚園教諭や保育士、老人保健施設の事務職、ホテル経営者などを経て、広島の住宅会社に勤務。建築CAD2級、福祉住環境コーディネーター2級を取得し、各資格の専門的な知識を活かした住環境を提案。
高齢者や身体に障害のある方に対して、暮らしやすい住環境を提案する仕事です。医療・福祉・建築の幅広い知識が求められ、福祉用具のアドバイスをすることもあります。
目次
福祉住環境コーディネーターの資格を取得したきっかけを教えてください
(槇田さん)昔から住宅のカタログを見るのが好きで、建築分野に興味がありました。「福祉住環境コーディネーター」を知ったのは、大学で建築の勉強をしていたときです。母が看護師をしていて、医療・福祉の世界が身近だったことも興味を持つきっかけになっていると思います。職業訓練校に通って建築CAD2級を、その後福祉住環境コーディネーター2級を取得しました。
これまで幼稚園や老人ホームで働いていた際に、「環境って大事だな」と思うことがよくありました。きちんと整えられた環境は、子供も高齢者の方も安心して過ごせますよね。段差への配慮といった過ごしやすい環境は、子供にとっても高齢者の方にとっても良いものだと思います。
福祉住環境コーディネーターとしての仕事内容は?
お客様への接客風景
(槇田さん)普段は資料請求されたお客様のお話を伺って、営業スタッフにつなぐ仕事をしています。お店の窓口係なので、スタッフの中では誰よりも多くのお客様に接していると思います。ただ、「福祉住環境コーディネーター」を知っている方はほとんどいらっしゃいませんから、通常業務の中で資格の知識を活かし、提案を行うことが多いですね。
お客様は、「デザイン性」「収納力」「バリアフリー」の3点を兼ね備えたデザインを希望されることが多いのですが、現実的にみると、全ての要素を完璧に兼ね備えた家づくりは難しいです。手すりを付ければ収納面積は減りますし、家具も置きにくくなります。また手すりを付けるとなると、お金もかかりますしね。
(槇田さん)「老後生活のことを考えて、手すりをつけたい」と希望されるお客様には、「まだ病気・麻痺がない状態で手すりを付けても、お役に立たない可能性がありますよ」と、はっきりお伝えします。なぜなら、麻痺が身体の左右のどちら側なのか、または握力の程度によっても、必要な手すりの位置や形状は変わるからです。
たとえば、握力がある場合だと丸い掴めるタイプの手すりでも構いませんが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のように握力が弱くなっていく病気であれば、平たい形の、腕をあずけられるような手すりでないと役立ちません。単純に手すりを付けておけばバリアフリーになるわけではない点が難しいところです。
福祉士住環境コーディネーターの知識がないと、こういった提案はできないので、勉強しておいてよかったと思いますね。
福祉住環境コーディネーターの仕事で、いつも気を付けていることは?
(槇田さん)ご家族が言いづらいことを代弁することです。以前「高齢の母のためにバリアフリーの家にリフォームしたい」と男性のお客様に依頼されたことがありました。かなり本格的なリフォームを希望されており、予算もだいぶ膨らんでいたので、「いずれお母様が亡くなった後のこともふまえて、プランを考え直しませんか」とご提案しました。そのお客様はご結婚もされているので、お母様よりも奥様との生活の方が長く続いていきますよね。奥様にとってはお姑さんになりますから、「亡くなったあとの話」は言い辛いものです。ですが、リフォームは数百万円以上かかることもあります。高額な費用がかかる部分なので、お一人だけの意見で進めてしまうと、後々ご家庭でトラブルになる可能性はゼロではありません。だからこそ、厳しいことであっても、伝えるべきことは伝えるように心がけています。
福祉住環境コーディネーターのやりがいは?
(槇田さん)老人保健施設で働いていた頃、劣悪な環境に引きこもっていた高齢者の方がいらっしゃいました。スタッフの皆で何度も訪問して説得し、最終的には施設に入居いただけたことがあります。その方が在宅に移行する前に、息子さんが「親のために家をリフォームしたい」とおっしゃっていたので、リフォームのアドバイスをさせていただきました。後日お話を聞くと、私のアドバイスを実践してくださったようで、とてもうれしく思いましたね。資格の知識が実際に役立った瞬間です。
今後の目標を教えてください
(槇田さん)福祉住環境コーディネーターを知っている人はまだまだ少ないので、まずは認知度を上げたいです。幼稚園教諭や建築士のように、福祉住環境コーディネーターが誰もが知る資格になり、「リフォームするときは福祉住環境コーディネーターに相談しよう」と思ってもらえるようにしていきたいですね。
最近は高齢者の孤立が進んで、それぞれの世代が分断されているように感じます。社会的な影響もあると思いますが、住環境も関係していると考えています。3世代が一緒に暮らせて、「看取りまでできる家」が増えていったら、素敵だと思いませんか?
どんなに年齢を重ねても、食事や排泄といった最低限のことは自分でやりたいと思う高齢者の方は多いです。最後まで自分らしく生活できる住環境を提案していきたいと考えています。
これから福祉住環境コーディネーターを目指したい方、興味がある方へのメッセージをお願いします
(槇田さん)私のように建築業界で働いている方が資格を取るのもいいですが、私は、介護・医療現場で働いている方にこそ、資格の取得をおすすめしたいです。福祉住環境コーディネーターの知識があれば、利用者さんが退所される際に「おうちに帰ったら、ここの段差でこうやって訓練しましょう」と具体的な提案ができます。また「リフォームをするなら、このようなデザインでお願いするといいですよ」とアドバイスも可能です。実践で使えると感じるのは2級なので、ぜひ2級の取得を目指して頑張って勉強してほしいですね。
槇田さんのインタビューを終えて
病気や麻痺など身体の状態に応じて、手すり1つにも細かな配慮が必要だと初めて知った方も多いのではないでしょうか。たとえ施設に入居していても「できれば最期は自宅で迎えたい」と思う方は少なくありません。そんなときに、住まいの環境を適切に整えることが求められます。自宅でも安全で快適な暮らしが続けていけるように、あなたも福祉住環境コーディネーターの勉強を始めてみませんか?