認知症治療薬の新薬「レカネマブ」を国内承認!特徴や副作用とは?
2023年8月、厚生労働省の専門部会で、認知症治療薬の新薬「レカネマブ」が国内承認されました。日本においてアルツハイマー型認知症に対する薬はなく、対症療法のみだったため、レカネマブが承認されたことは認知症治療の大きな一歩となります。そこで今回は、認知症治療薬の新薬レカネマブの概要や臨床結果、副作用、その他の新薬の情報などについて見ていきましょう。
目次
新薬「レカネマブ」が国内承認!
認知症患者の7割ほどがアルツハイマー型といわれています。また、今後の高齢化を考えると、さらなる認知症患者が増えることが予想されており、アルツハイマー型認知症の治療薬の開発が進められていました。
アメリカでは2021年に承認された認知症治療薬「アデュヘルム」がありますが、医療保険での適用が受けられず高額という理由で浸透していません。また、ヨーロッパや日本では承認されませんでした。
そういった中、日本の製薬会社エーザイとアメリカの製薬大手バイオジェンとの共同開発にて、認知症治療薬の新薬レカネマブが登場。2022年秋の試験では、レカネマブがアデュヘルムを上回る結果を出したと発表し、注目されました。
その後、エーザイは2023年1月に、医薬品医療機器総合機構に承認申請。厚生労働省も優位性を考慮して、審査を短期間で終わらせる優先審査品目に指定するほどでした。
結果、8月の専門部会で認知症治療薬レカネマブが新薬として承認されました。
新薬「レカネマブ」について
認知症治療薬の新薬レカネマブが認知症の進行スピードを緩やかにすることがわかっていますが、具体的にはどういうことなのでしょうか?また、アデュヘルムとの違いについて見ていきましょう。
レカネマブとは
認知症治療薬の新薬レカネマブは、認知症の根治につながる薬ではありません。また、投与対象の方は日常生活に支障がない早期の患者さんに限定されている点がポイントです。
そもそもアルツハイマー型認知症は、アミロイドベータと呼ばれるたんぱく質が原因で発症するといわれています。アミロイドベータが脳内に蓄積して神経細胞を壊していき、認知症の症状が進行するという仕組みです。
レカネマブは、このアミロイドベータを除去することを目的としています。アミロイドベータが固まる前に、人工的に作り上げた抗体を結合させることで、神経細胞が壊れるのを防ぐ役割があるのです。
しかし、壊れてしまった神経細胞は再生できません。そのため、アミロイドベータが脳内に蓄積し始めた軽度認知症の方が対象というわけです。
レカネマブの臨床結果
エーザイとバイオジェンは、日本やアメリカだけでなく、ヨーロッパやアジアの235の医療機関で臨床試験を実施しました。早期のアルツハイマー型認知症の患者に対して、レカネマブを2週間に1回点滴するというものです。
18ヶ月後、レカネマブを投与した方と偽薬を投与した方とを比べると、レカネマブを投与した方の症状の悪化が27%抑制されました。また、アミロイドベータの蓄積度を示すセンチロイドも大幅に減ったことがわかっています。
レカネマブとアデュヘルムの違い
アルツハイマー型認知症進行の原因物質アミロイドベータに着目して開発されたレカネマブとアデュヘルムですが、両者の違いは何なのでしょうか?
そもそもアミロイドベータは、重なり合ってアミロイド繊維を作っています。この繊維が塊になることで老人斑として脳内に蓄積し、アルツハイマー型認知症が進行するという仕組みです。
アデュヘルムの場合は、アミロイド繊維や老人斑に働きかけます。一方レカネマブは、アミロイド繊維になる前のアミロイド凝集体に作用。この点が相違点です。
レカネマブによる副作用と課題
認知症治療薬の新薬レカネマブは、早期のアルツハイマー型認知症の方への効果が期待されていますが、副作用や課題はないのでしょうか?ここでは、レカネマブの副作用や課題について紹介します。
副作用
臨床試験において脳のむくみや出血が副作用としてあげられましたが、安全性に重大な問題はないとして承認されました。
ただし、レカネマブ投与の前に出血傾向にないかどうかを検査したり、血栓を溶かす薬を服用している方へ投与する際には注意したりするようにと伝達されています。
課題
レカネマブに対する課題は2つ。アルツハイマー型認知症の早期発見と価格です。
レカネマブは前述したように、初期の認知症患者でなければ使用できません。しかし、アミロイドベータが蓄積されていることを検査できる施設は限られ、健康診断で診断することも難しいでしょう。つまり、レカネマブ投与に間に合う初期の認知症患者を見つけることが、現在の医療体制では困難なのです。
価格面については、一足先に承認されたアメリカでは、1人当たり年間26,500ドルかかります。1ドル140円で計算すると、約370万円に。日本ではまだ薬価算定が確定していませんが、同程度になると考えられています。
レカネマブが日本の医療現場で使われる時期は?
認知症治療薬の新薬レカネマブは、2023年8月の専門部会で承認されましたが、薬価算定をしなければなりません。
算定についての議論は、承認より原則60日から90日といわれています。そのため、最短で10月から11月。上手くいけば、2023年内に使用できるようになる可能性があります。
今後注目の新薬とは?
レカネマブによって認知症治療薬に注目が集まったのですが、今後期待される新薬はあるのでしょうか?
実は「ドナネマブ」という薬がすでに開発されています。ここでは、認知症治療薬の新薬ドナネマブがどういう薬なのか、レカネマブに与える影響について見ていきましょう。
ドナネマブについて
ドナネマブはアメリカ製薬大手のイーライリリーが開発した認知症治療薬で、アミロイドベータを除去する作用が期待されています。レカネマブと同じく、アミロイドベータに作用することで認知症の進行を緩やかにするという薬で、認知症初期の方に投与可能です。
ドナネマブがレカネマブに与える影響
ドナネマブがレカネマブに与える影響は大きいと考えられます。これはアルツハイマー型認知症の発症原因が、アミロイドベータの蓄積によるものだという証明の後押しになるためです。ドナネマブとレカネマブは同じアミロイドベータに着目して作られているため、ドナネマブの効果が認められれば、レカネマブの効果の信憑性を高められるでしょう。
また、同じような種類の新薬を開発することで、エーザイとバイオジェン、イーライリリーが手を組んで包括的な研究ができれば、さらなる新薬の期待や、その他の認知症関連事業へのビジネスチャンスが広がるかもしれません。
新薬承認で知っておきたい高額療養費制度
認知症治療薬のレカネマブを使う場合、新薬のため高額になる可能性が高いです。しかし政府は、社会的要請を鑑みて高額療養費制度の適用を検討しています。
高額療養費制度とは、医療費の負担を軽減するための制度です。病院や薬局で支払う医療費が1ヶ月間で上限を超えた場合、超えた額を支給するというもの。上限は年齢や所得によって違いますが、高額療養費制度が適用されれば、自己負担金額は先ほど紹介したような高額にはならない見込みです。
今後も認知症治療薬開発に期待大!
研究によって認知症治療薬開発も日々進化しています。新薬レカネマブが日本で使用できるようになる日もあとわずか。軽度認知症の方やそのご家族にとってはとても明るいニュースです。介護施設においても問い合わせがあるかもしれません。どんな薬なのかということを知っておくと、話のきっかけになるでしょう。