全世代型社会保障とは?介護現場の生産性向上が急務に

全世代型社会保障とは、持続的な社会の実現を目指すための施策です。近い将来、日本はさらなる高齢化や人口減少など、大きな問題に直面します。医療・介護業界にもその影響が及ぶことは明白でしょう。介護現場で働く方にとっても、今後の政策の動向は見過ごせないはずです。そこで今回は、全世代型社会保障とは何かを解説するとともに、具体的な取り組みや、介護現場にもたらす変化をご紹介します。

全世代型社会保障とは?

全世代型社会保障とは、制度そのものの名称ではなく、これからの日本社会が目指すテーマのようなものです。ニュースなどで「全世代型社会保障会議」や「全世代型社会保障改革」といった言葉を目にしたことがある方も少なくないでしょう。
国では全世代型社会保障の考え方をもとに、保育・介護・障害福祉・医療などを含む社会保障全般について、制度の見直しや改革を議論。
全世代型社会保障の構築完了は2040年頃を想定しており、緊急性や重要性、地域ごとの課題などを考慮しながら、計画的に進められています。2021年11月から2023年2月まで開催された全13回の会議ではさまざまな制度が議題にあがり、法案の改正や体制の整備が行なわれてきました。

全世代型社会保障を進める目的

全世代型社会保障とは、これから目指す社会の構造であると説明しました。では、具体的な目標や、基本の考え方を見てみましょう。

人口減少の流れを食い止める

少子化による人口減少は、日本の経済活動を縮小させ、国の存続危機をもたらします。この先子供を生みたいと思える社会、また生んでからも安心して子育てができる社会の実現は、今まで以上に不可欠です。全世代型社会保障では、これ以上人口が減るのを防ぐため、子育て支援の強化や子育て費用を社会全体で担う仕組みの整備を進めます。

超高齢社会に備える

人口減少を防ぐとともに重要なのが、今後さらに深刻になる超高齢社会への備えです。厚生労働省の『第12回全世代型社会保障構築会議報告書』によると、75歳以上の人口は2042年にピークを迎え、一度は減少するものの、その後も比率は増え続けると予想されています。そのような状況下でも社会を維持するには、労働力の確保や、給付と負担のバランスが取れた社会保障制度を整えることが重要です。
例えば女性や高齢者でも希望通りに働ける制度の構築や、社会全体で社会保障給付を支える仕組みづくりなど、議論される対策は多岐にわたります。

地域で支え合う社会を構築

この先すべての世代で独居者が増え、孤立や孤独、日常生活の維持困難などがより深刻になる見込みです。その背景には、不遇の時代に直面した就職氷河期世代の高齢化や、人口減少が進む地域の支え合い機能低下などがあります。
全世代型社会保障では、人々が地域と繋がり、支え合いながら安心して生活ができる社会の実現を考案。地域ごとに、医療・介護・福祉などの包括的なケアが提供できるよう、体制を整えようとしています。また、住まいの確保なども今後の課題です。

全世代型社会保障の医療・介護分野における取り組み例

全世代型社会保障をもとにした、医療・介護分野における具体的な施策案を一部ご紹介します。

医療保険制度や医療体制の見直し

国は増加する高齢者の医療費を現役世代だけが支えるのではなく、負担に応じてすべての世代で公平に担う方針を固めました。後期高齢者医療制度の見直しや、前期高齢者の医療費の負担を健康保険組合で調整するなど、全世代で高齢者を支える制度が確立されつつあります。
また、地域によって大きく差がある医療・介護の需要にも対応しなければいけません。そこで、都道府県別の医療機関のデータベース構築や、身近な地域で健康管理や医療提供を受けられる「かかりつけ医機能」の強化も進められています。
かかりつけ医機能が浸透すれば、在宅医療や介護施設との連携がスムーズになるなど、効率的な医療体制を築けるでしょう。

地域包括ケアシステムの強化と介護現場の改革

介護保険にかかる費用は、医療保険を大きく上回るペースで増加しています。今後は要介護認定率も上がる見込みで、都市部では介護ニーズが急増するでしょう。一方で、介護業界の人手不足はますます深刻になっていきます。
そこで、高齢者が住み慣れた地域で医療・介護サービスや生活支援などをまとめて受けられる「地域包括ケアシステム」の強化がより求められるように。単身、独居や要介護度の高い高齢者が、自宅でサービスを受けられる体制づくりが急いで行われています。
また、認知症の方とその家族が安心して長く暮らせる環境づくりも重要です。今後も地域と行政が一丸となり、介護予防や社会との繋がりを維持できる体制を増強していきます。
同時に、介護現場の生産性向上や、労働環境の改善も進めていかなければなりません。介護分野へのテクノロジーの導入や、働き方改革など、さまざまな対策が実施されています。

今後求められる介護サービスとは?

介護現場が高齢化の課題に応えるには、個々の介護ニーズに柔軟に対応していくことが大切です。例えば介護スタッフが要介護者を送迎し、ついでに簡単な家事など生活支援を行うとしましょう。利用する側は効率的にサービスを受けられ、事業者側は介護スタッフの生産性や賃金を引き上げられるメリットがあります。
実際に、全世代型社会保障会議でも「複合型サービス」の創設が認められました。今後の介護現場では、異なる複数のサ-ビスを掛け合わせた、新しい在宅サービスの提供が普及するかもしれません。

全世代型社会保障が進むと介護現場はどう変わる?

最後に、全世代型社会保障が進むと、介護現場にどのような変化がもたらされるのかご紹介します。

介護スタッフの待遇アップ

すでに国では、介護福祉士の資格を持つ方をはじめとした、介護スタッフ全般の給料を上げる政策を2019年に打ち出しています。その後も給料は増加傾向にありますが、2024年度には新たに介護報酬改定や処遇改善加算の見直しがされる予定です。明確な内容はまだ発表されていませんが、複合型サービスの新設や、未だ解消されない人手不足を考慮すれば、待遇改善の見直しは今後ますます活発になるでしょう。

介護現場の業務効率化で負担軽減

政府は介護現場の業務効率化を図るため、介護ロボットの導入支援や、行政手続きのデジタル化、在宅介護や福祉用具へのテクノロジー導入を促進しています。
また、外国人スタッフをはじめとした多様な人材の採用や育成、介護職の魅力発信にも注力。介護業界のあり方が変われば介護スタッフの負担も軽減され、より良い労働環境への変化が期待できるでしょう。

全世代型社会保障の実現で介護現場が大きく変わる!

全世代型社会保障とは、人口減少や超高齢化社会を克服するための施策です。社会全体の仕組みが構築されるとともに、介護業界も雇用やサービス提供を維持していかなければいけません。介護スタッフの生産性向上や効率化を図るとともに、介護事業者の経営状況の可視化など、新しい体制づくりが急いで求められています。

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