ポリファーマシーのガイドラインとは?介護職が知っておきたいこと

利用者さんのなかには、さまざまな病気を抱えて複数の薬を服用されている方もいるでしょう。薬一つひとつに問題はなくても、多種類の薬を服用することで副作用をもたらすリスクがあります。その状態のことをポリファーマシー(多剤併用)と呼び、医療業界で問題視されおり、ガイドラインも作成されています。そこで今回は、ポリファーマシーとは何か、具体的な症状や介護スタッフができることなどについて見ていきましょう。

ポリファーマシーとは何か?

ポリファーマシーとは、複数の種類の薬を服用している状態のこと。「多剤併用」「多剤服用」などとも呼ばれています。

医療業界においてもポリファーマシーについては対応すべき問題だと捉えられており、さまざまな対策を実施。

そのなかでも、ポリファーマシーを防ぐために、厚生労働省や日本老年医学会、日本薬剤師会などの公的機関がガイドラインや指針を公表しています。

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000162475.pdf

日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf

日本病院薬剤師会
https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20230911-1.pdf

ポリファーマシーは薬によって起こること

そもそもポリファーマシーとは、「Poly(多くの)」と「Pharmacy(調剤)」を合わせた言葉です。単純に「薬が多い」ということを表しているのではなく、多種類の薬の服用によって副作用を起こす可能性がある状態のことを指します。

医師によって処方されているため、異なる種類の薬を飲むこと自体は悪くはないのですが、飲み合わせによっては身体に悪影響を及ぼす可能性があるということです。

「〇種類の薬の服用になることでポリファーマシーに」という定義はありません。ただ、薬が6種類以上になると副作用が起きるリスクが高まると言われています。

ポリファーマシーはなぜ起きる?

ポリファーマシーの主な原因は、高齢になり複数の慢性疾患を抱えてしまうこと。高齢になれば仕方ないことですが、新たな病気に罹患するたびに薬の種類も増える可能性が高いでしょう。

また、病気によって受診する病院を変えている場合、それぞれの病院で薬が処方されます。そのため、各病院の医師は自身の処方以外にどんな薬が処方されているのか知らないケースもあるのです。

病院や薬局では「他の病院で薬を処方されていませんか」と質問されることもありますが、質問することを忘れていたり、利用者さんが服用している薬について失念したりすることも。ポリファーマシーにならないためにも、医師や薬剤師に服用中の薬の共有をすることは重要です。

要注意!ポリファーマシーを見逃すことも

ポリファーマシーによって、高齢者特有の症状が出ることも。老年症候群と呼び、ふらつきや認知機能障害などが現れます。老年症候群のうち、ポリファーマシーや薬剤を原因とするものが薬剤起因性老年症候群です。

「高齢者だから少しくらいは仕方がない」と思っていると、ポリファーマシーを見逃してしまうことも。ここでは、具体的な症状や原因となる可能性がある薬について紹介します。

*厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」より引用。

ふらつき

ふらつきや転倒を引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • 降圧薬(特に中枢性降圧薬、α遮断薬、β遮断薬)
  • 睡眠薬
  • 抗不安薬
  • 抗うつ薬
  • てんかん治療薬
  • 抗精神病薬(フェノチアジン系)
  • パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)
  • 抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)
  • メマンチン

食欲低下

食欲低下を引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)
  • アスピリン
  • 緩下剤
  • 抗不安薬
  • 抗精神病薬
  • パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)
  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
  • コリンエステラーゼ阻害薬
  • ビスホスホネート
  • ビグアナイド

便秘

便秘を引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)
  • 抗うつ薬(三環系)
  • 過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
  • 腸管鎮痙薬(アトロピン、ブチルスコポラミン)
  • 抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)
  • αグルコシダーゼ阻害薬
  • 抗精神病薬(フェノチアジン系)
  • パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)

排尿障害

排尿障害や尿失禁を引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • 抗うつ薬(三環系)
  • 過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
  • 腸管鎮痙薬(アトロピン、ブチルスコポラミン)
  • 抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)
  • 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)
  • 抗精神病薬(フェノチアジン系)
  • トリヘキシフェニジル
  • α遮断薬
  • 利尿薬

抑うつ

抑うつを引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • 中枢性降圧薬
  • β遮断薬
  • 抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)
  • 抗精神病薬
  • 抗甲状腺薬
  • 副腎皮質ステロイド

せん妄

せん妄を引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • パーキンソン病治療薬
  • 睡眠薬
  • 抗不安薬
  • 抗うつ薬(三環系)
  • 抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)
  • 降圧薬(中枢性降圧薬、β遮断薬)
  • ジギタリス
  • 抗不整脈薬(リドカイン、メキシレチン)
  • 気管支拡張薬(テオフィリン、アミノフィリン)
  • 副腎皮質ステロイド

記憶障害

記憶障害を引き起こす可能性がある薬は以下の通りです。

  • 降圧薬(中枢性降圧薬、α遮断薬、β遮断薬)
  • 睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)
  • 抗うつ薬(三環系)
  • てんかん治療薬
  • 抗精神病薬(フェノチアジン系)
  • パーキンソン病治療薬
  • 抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)

介護スタッフができる予防策とは

介護スタッフが薬の処方をすることはできません。だからと言ってポリファーマシーに気をつけなくて良いわけではなく、医療職と介護スタッフが協力することで、ポリファーマシーの予防ができることも。

最後に、介護スタッフができるポリファーマシーの予防策について見ていきましょう。

情報共有

介護スタッフは、薬の用意や薬をきちんと飲んだかを確認することもあり、利用者さんの服用状況を知り得る立場にあります。服用によって、普段とは違う症状が出ることがあれば、速やかに医師や看護師に相談するなどして情報共有しましょう。

また、新しい薬が追加される、他の薬に変更したなどの変化があれば、介護スタッフ間で情報共有することも大切です。

利用者さんへの声かけ

多種類の薬を服用している利用者さんに限らず、服用によって体調の変化がないかを積極的に質問するようにしましょう。

利用者さんはあまり気にしていなくても、質問されたことで「そう言えば…」と考えるきっかけにもなるためです。

処方薬の内容を確認

医師と薬剤師で処方薬の内容を確認していますが、念のため普段と違う薬が入っていないかをチェックするようにしましょう。

また、処方薬のなかには、前述した薬剤起因性老年症候群を引き起こす可能性がある薬が含まれていることもあります。事前に処方薬の内容を認知しておけば、万一に備えられるでしょう。

利用者さんの服用の悩みを相談

「錠剤が大きくて飲みにくい」や「回数が多くて大変」など、利用者さんの服用の悩みを聞いて医師に相談するのも介護スタッフの役割です。そうすることで、服用薬剤数を減らしたり用法を単純化できたりすることもあります。

また、悩みを聞くことで、ポリファーマシーの予兆を察知することもできるかもしれません。

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ポリファーマシーの予防には普段からのサポートが大切

ポリファーマシーの認識を浸透させるために、まずは厚生労働省などが公表しているポリファーマシーのガイドラインを介護スタッフで読み合わせすると良いでしょう。そのうえで、ポリファーマシーに注意するために、日頃から利用者さんに服用に関する悩みがないか、普段と違う様子はないかなどを確認するようにしてください。少しでも不安なことがあれば、速やかに医師や看護師に相談することをおすすめします。

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