介護現場で考える身体拘束!介護職が知っておきたい基礎知識や防止法
高齢者への虐待相談件数は年々増加しており、虐待を防ぎ高齢者を守るために2005年に高齢者虐待防止法が制定されました。一般的に、高齢者に対する身体拘束は虐待に該当します。介護現場では、利用者さんを守るためにとった行動が身体拘束につながってしまうことも。そこで今回は、介護職が知っておきたい身体拘束の定義や身体拘束を防ぐためにできることなどを見ていきましょう。
厚生労働省が定める身体拘束の定義
まずは、厚生労働省が定める身体拘束の定義について紹介します。
身体拘束とはどういうことか
厚生労働省では身体拘束とは、高齢者を車椅子やベッドに縛りつけるなどの身体の自由を奪う行為としています。身体拘束は、人権擁護の観点だけでなく、高齢者の生活の質を根本的な部分から損なう危険が高いものです。
なぜなら、身体拘束によって身体の自由を奪われると身体機能が著しく低下します。場合によっては圧迫部位が傷になったり、寝たきりにつながったりすることも。さらには、精神的苦痛を与えて死期を早めてしまう恐れもあるのです。
身体拘束となる要件
決して行ってはいけない身体拘束ですが、厚生労働省が定める3要件を満たせば身体拘束は「やむを得ない」としています。それは、認知症などの影響で利用者さん自身や他の利用者さんに危険が迫っている場合です。3つの要件とは以下の通りです。
- 切迫性…利用者さん自身や他の利用者さんの生命や身体が危険にさらされる可能性が極めて高い
- 非代替制…身体拘束のかわりとなる介護方法がない
- 一時性…一時的な拘束であること
身体が危険にさらされる可能性が極めて高く、身体拘束以外に方法がないこと。そして身体拘束が一時的であることが要件になっています。
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これも身体拘束?具体例をチェック
そもそも身体拘束に該当する行為にはどのようなものがあるのでしょうか?以下の事例を確認してみてください。意外と「介護現場で見かけたことがある」と感じる方もいるかもしれません。
- ベッドから降りないようにベッドを柵で囲む
- 徘徊を防ぐためにベッドや椅子に四肢をひもなどで縛る
- ベッドから転落しないようにベッドに四肢をひもなどで縛る
- 点滴のチューブを抜かないように四肢をひもなどで縛る
- 自身で立ち上がれる方に対して、立ち上がりを防ぐような椅子を使用させる
- 利用者さん自身で開けられない居室に隔離する
介護スタッフから考えると、利用者さん自身や他の利用者さんを守るために仕方がないことかもしれません。しかし、身体拘束によって利用者さんのさらなる認知機能低下を招き、より強い身体拘束が必要になるなど、悪循環に陥ってしまうこともあります。
身体拘束が現場でなくならない理由
そもそも身体拘束が医療や介護の現場でなくならない理由は何なのでしょうか?主な理由は身体拘束に対する一般的な「神話」や介護スタッフ不足です。
身体拘束に対する一般的な神話とは、以下のようなものです。
- 高齢者は転倒しやすく転倒すると大きなケガにつながるため拘束すべき
- 傷害から利用者さんを守るのは看護者の道徳的な義務である
- 拘束しないと、万一転倒してケガをした場合、スタッフや施設側の責任問題になる
- 拘束しても高齢者はそれほど苦痛ではない
考えられない内容のものもありますが、「身体拘束は仕方がない」と考えていた以前の体制下では、こういった考えを基本としていたのです。
身体拘束は、日本だけの問題ではなく海外でも問題になっていました。昔は「身体拘束はやむを得ない」という考えもありましたが、現在では身体拘束を行わないことがスタンダードです。
イギリスでは、数十年近く身体拘束は規制されておりほとんど行われていません。またアメリカでも1980年代から1990年代にかけて規制され、身体拘束が改善されています。
ペンシルベニア大学のEvans博士やStrumpf博士らの文献研究によって、身体拘束に対する一般的な神話が反証されたことも一つの要因でしょう。
このように世界的に身体拘束防止の動きがあり、日本でも高齢者虐待防止法が施行されるなど身体拘束防止への機運は高まっていますが、医療や介護の現場レベルで考えるとまだまだ「神話」が残っているようです。
また、スタッフ不足を理由に身体拘束は仕方ないとする施設もあるのが現状。この場合、利用者さんのケアにかかる時間を数値化し、それに対応できるスタッフを確保・配置するなど、施設として工夫することが必要になるでしょう。
身体拘束をしないためにできること
最後に、身体拘束をせずに行うためのケア「3つの原則」を意識した取り組みを見ていきましょう。
<3つの原則>
- 身体拘束が必要になる原因を探して除去する
- 5つの基本ケアの徹底
- 身体拘束廃止によるより良いケアの実現
まずは利用者さんの立場に立ち、なぜそのような行動を起こすのかを考えて問題を解決していきましょう。そして5つの基本ケア(起きる・食べる・排泄する・清潔にする・活動する)に立ち返り、利用者さん一人ひとりに合ったケアを徹底することが大切です。
そして、介護スタッフ1人で考える問題ではなく、介護施設全体で考えなければならない課題だということを認識して、施設全体で身体拘束廃止の取り組みをしていくべきでしょう。
どのような状況でも身体拘束はNG!
やむを得ず、厚生労働省が定める3要件を満たせば、一時的な身体拘束は認められています。しかし身体拘束によって、利用者さんはもちろん介護スタッフも精神的苦痛を感じることも。介護施設全体の雰囲気が悪化しかねない身体拘束は、絶対になくすべきです。なぜ利用者さんがそのような行動をするのかを考え、問題行動を抑制する方法を考えましょう。