失語のある認知症の方とのコミュニケーション方法は?ポイントを解説

言葉は人とコミュニケーションをとるうえで欠かせないものです。しかし、認知症の利用者さんの中には、失語の症状が出ていることもあるかもしれません。言葉がスムーズに出てこない利用者さんとの接し方や話し方に悩む方もいるでしょう。そこで今回は、失語のある認知症の利用者さんとのコミュニケーション方法について解説します。認知症による失語についても触れるので、理解を深める際の参考にしてみてください。

認知症による失語とは

ひとくちに認知症といっても症状はさまざまですが、中には失語が現れる方もいます。認知症による失語について、詳しく確認していきましょう。

失語は認知症に現れる症状のひとつ

認知症は何らかの原因により脳の神経細胞が破壊されることにより発症、進行します。中核症状とは、脳の細胞が死んでしまい、人間にしかない言語や判断、感情といった高次脳機能が低下することで現れる症状のこと。目の前のものを理解したり何をすべきか判断したりしてコミュニケーションが取れるのは、高次脳機能が正常だからです。

中核症状により現れる障害には、以下のようなことが挙げられます。

記憶障害…これまで覚えていたことを忘れる、新しいことを覚えられない
見当識障害…時間や場所、人などの認識ができなくなる
理解力や判断力の低下…理解に時間がかかるようになるなど
実行機能障害…順序立てて行うことが難しくなる
失行…日常的に行っていた動作や操作が行えなくなる
言語障害(失語)…言葉の理解や表出が困難になる

失語は中核症状のひとつです。認知症が進行し脳の神経細胞の破壊が言語中枢に及ぶと、失語の症状が現れます。

失語の症状は

失語の症状は、「話す」「聴く」「読む」「書く」という言葉にまつわる機能に弊害が現れるのが一般的。

話す…思った言葉が出てこない、単語の言い間違え、言葉の断片のみ発話、同じ言葉を繰り返すなど
聴く…聞こえているのに理解できない、聞いたことを覚えておけないなど
読む…文字は見えるのに理解できない、違う文字と読み間違えるなど
書く…書きたい文字が書けない、自分の名前も書けなくなるなど

言語中枢の中で障害を受ける場所により、失語の症状の現れ方に違いが生じます。

また、認知症による失語の症状と、失語症は似て非なるものです。認知症は状況把握が難しいなど認知機能の障害ですが、失語症は言葉でのコミュニケーションが難しい状態を指します。

失語症にはいくつかの種類がある

失語症にはいくつかの種類がありますが、認知症で起こりやすい2つの失語症について押さえていきましょう。

ウェルニッケ失語

ウェルニッケ失語は、別名「感覚性失語」とも呼ばれ、発語に問題はなく一見健常者と変わりません。しかし、聞き取った音を識別する働きに障害が起きているため、言葉の意味が理解できない状態です。そのため、話す内容は支離滅裂であることがほとんどで、自分が何を話しているか実感がないケースも多いようです。

ブローカ失語

ブローカ失語は別名「運動性失語」とも呼ばれ、言葉の意味は理解できるものの流暢に話をするのが難しい状態です。イメージを言葉に直す過程で障害が起きるため、発音はできても自分の考えを言葉で表現できなかったり、まったく言葉が出てこなかったりと、たどたどしい話し方になってしまうでしょう。

失語のある認知症高齢者は非言語的コミュニケーションを活用

失語のある認知症高齢者の利用者さんには、非言語コミュニケーションを活用して対応するのが基本です。

利用者さんの発するサインや行動パターンから読み取る

認知症で失語がある利用者さんは、本人が発するサインを受け取り理解することが大切です。例えば、ある利用者さんがトイレに行きたいとき、鼻をつまむ行為を見せていたそう。認知症で的確な表現はできていないかもしれませんが、トイレに行きたい、おなかがすいた、痛いなどといったときに何らかのサインを発している可能性があるため、そばにいるスタッフが気づけるように注意を払うことが大切です。

行動パターンから読み取るのもひとつの方法です。例えば、徘徊や妄想などの理由がよくわからない行動も、利用者さんなりの理由があるのかもしれません。こういったときにこう行動するなど、言動の理由を見つけられるようしっかり観察してみましょう。

ジェスチャーや写真、イラストを使う

ジェスチャーや写真、イラストを使うと、言葉を思い出すきっかけになることもあります。ごはんを食べることを伝えるときに、食べる動作をしたり箸を渡したりすると理解してくれることもあるでしょう。

痛みについて確認するときは、痛みのある箇所をさする、顔をしかめるという一連の動作で伝わることもあります。ジェスチャーしてみて真似する動作をするようなら、痛みのサインかもしれません。

失語のある認知症の利用者さんとのコミュニケーション<話しかけるとき>

失語のある認知症の利用者さんに話しかけるときのポイントを確認していきましょう。

ゆっくりと大きな声で話す

利用者さんが聞き取りやすいよう、できるだけゆっくり、大きな声で話かけます。単語ごとに区切るようにメリハリをつける、表情や声の調子などを工夫するなどして、聞き取りやすくなるようにしましょう。

答えやすいような質問をする

文章で返さないといけないような質問は、返事に困ることもあるでしょう。痛みを尋ねるなどの緊急を要する場面では、「はい」もしくは「いいえ」で返事ができるような、答えやすい質問を投げかける工夫も大切です。

静かな環境を整える

認知症が進行すると集中することが難しくなるため、うるさい場所ではコミュニケーションが取りにくいでしょう。テレビを消す、静かな部屋に移動するなどして、集中しやすい状況下で話しかけることも大切です。利用者さんが安心できそうな場所を選ぶと、より落ち着いて話ができるかもしれません。

失語のある認知症の利用者さんとのコミュニケーション<話を聞くとき>

失語のある認知症の利用者さんの話を聞くときは、以下のようなポイントを意識しましょう。

話をさえぎらない

利用者さんからなかなか言葉が出てこなくても、さえぎらず5秒間は待つようにしましょう。時間をかけると話せることもあるので、ワンクッション置いて言葉を待ちます。先回りして「〇〇ですか?」と決めつける、「早くしてください」などと急かすなどの行為はNGです。

安心して話せる状況をつくる

利用者さんが安心して話せるような状況を意識的に作り出すことも大切です。話を聞く側が焦っていると、利用者さんにも伝わり焦らせてしまうこともあるでしょう。ゆったりとした気持ちで時間をかけて会話をすると良いかもしれません。

失語のある認知症高齢者とのコミュニケーションは

失語のある認知症の利用者さんは、中核症状によりさまざまな能力が低下している可能性があります。話しかけても反応がないからと、コミュニケーションの頻度が減ってしまいがちですが、どの程度理解できるのか判断しながら、いろいろなコミュニケーションを試してみることが大切です。利用者さんの様子をしっかりと観察しつつ、サインや行動パターンを見極めながら、しっかり関わっていけると良いでしょう。

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