生産性向上推進体制加算って?算定要件を含む制度内容について解説

2024年度の介護報酬改定で新設された生産性向上推進体制加算。加算対象は、介護現場において業務負担の軽減を図っている事業所です。この制度が新設された背景には、介護業界における深刻な問題が関係しています。そこで今回は、生産性向上推進体制加算が新しく導入された社会的背景と制度の概要、算定要件について詳しく解説しましょう。

生産性向上推進体制加算とは

生産性向上推進体制加算は、介護現場の生産性を上げるために制定されました。介護ロボットやICT機器などを導入している事業所が対象です。加算を設け、継続的にテクノロジーを取り入れている事業所を支援する目的があります。
介護現場にテクノロジーを普及させるメリットは、安定した質の介護サービスが提供できる、利用者さんの安全確保と職員の負担軽減につながるといった点です。加算対象となる事業所は、生産性を上げるための委員会を設けて、業務改善を図ったことを示すデータを提出する必要があります。生産性の向上に対して継続的に取り組む必要はありますが、テクノロジー機器の導入を検討している事業所にとっては有利な制度と言えるでしょう。

生産性向上推進体制加算が導入された社会的背景

生産性向上推進体制加算が導入された背景には、社会的に問題となっている高齢化の影響があります。内閣府が公開している「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によると、2022年10月1日時点での日本の総人口に対する65歳以上の人口割合は29.0%です。1970年時点で7%、1994年時点で14%であった65歳以上の人口割合は、年々高まり続けています。
また、少子化に伴い介護を担う若者の人口は減少。少子高齢化社会によって、介護業界は深刻な人手不足に陥る可能性があるのです。
今後も高齢化が進むと予想されている現代の社会では、介護業界の生産性向上が必要不可欠。生産性向上推進体制加算は、需要が高まっている介護業界のサービス向上につながる重要な制度と言えるでしょう。

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)(Ⅱ)の算定要件・単位数

生産性向上推進体制加算には、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類の加算があります。それぞれの算定要件と単位数を押さえておきましょう。

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)の単位数は、100単位/月。
算定要件は、以下の4つです。

・(Ⅱ)の要件を満たした上で、(Ⅱ)のデータから業務改善に取り組んだ成果が確認できる。
・見守り機器をはじめとしたテクノロジーが複数導入されている。
・職員同士で適切な役割分担ができている。
・1年に1回、業務改善の効果を示すデータを提出している。

(Ⅱ)の要件には、生産性を向上させるための委員会の開催、継続的な改善活動が行われていることが条件として含まれています。業務改善の効果を示すデータは、オンラインで提出可能です。

生産性向上推進体制加算(Ⅱ)

生産性向上推進体制加算(Ⅱ)の単位数は、10単位/月。
算定要件は、以下の3つです。

・見守り機器をはじめとしたテクノロジーが1つ以上導入されている。
・生産性を向上させるための委員会を開催し、必要な安全対策を講じた上でさらなる改善活動を継続的に行っている。
・1年に1回、業務改善の効果を示すデータを提出している。

生産性を向上させるための委員会では、介護サービスの質や利用者さんの安全の確保、職員の負担を減らすための施策を検討します。改善活動は、生産性向上ガイドラインに基づいて行うことが必要です。

算定要件のポイント

生産性向上推進体制加算を算定する際には、各項目の要件を十分に満たしておく必要があります。算定要件にある3つのポイントをチェックしておきましょう。

業務改善を行った効果を示すデータが必要

業務改善を行った効果を示すデータとは、以下の5つのことを指します。

ア 利用者のQOL等の変化(WHO-5等)
イ 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の変化
ウ 年次有給休暇の取得状況の変化
エ 心理的負担等の変化(SRS-18等)
オ 機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の変化(タイムスタディ調査)

引用元:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001213182.pdf

生産性向上推進体制加算(Ⅱ)では、上記項目のうちア~ウのデータが必要です。
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)を算定する場合は、ア~ウの項目を満たした上でエ・オの項目が成果として表れているかを確認されます。

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見守り機器やICT機器の導入

生産性向上推進体制加算を算定するためには、以下のような機器の導入が求められています。

・見守り機器
・職員同士の連絡が迅速に行えるICT機器(インカムなど)
・介護記録の作成を効率化するICT機器(介護記録ソフトウェア、スマートフォンなど)

介護記録の作成を効率化するICT機器は、データの入力から記録、保存、活用までがまとめてできるものに限られています。
(Ⅰ)の算定要件にある「複数のテクノロジー」として認められるためには、上記3種類の機器全てを導入していることが条件です。また、見守り機器は利用者さんがいる全ての部屋に設置、職員同士の連絡手段として導入するICT機器は全職員が使うことが必須となっています。ただし、利用者さんの意向によって見守り機器を停止する措置は問題ありません。
テクノロジーを導入する際は、対象の機器がどのくらい必要か事前に確認しておくと良いでしょう。

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今後の介護業界における課題

深刻な人手不足が懸念されている介護業界。これから取り組むべき3つの課題についてまとめました。

介護サービスの質を維持・向上させる

人員が足りていないと、少ない人数で利用者さん全員のサポートをしなければなりません。介護サービスの質も低下するでしょう。介護サービスの質をキープするためには、業務内容を洗い出し、役割分担を明確化する必要があります。
ほかにも生産性を向上させるための委員会の場で話し合う機会を設けることは、人手不足による影響を最小限に抑えることにもつながるでしょう。

介護業界のイメージ改善

介護業界に人材が集まりにくい原因には、業務内容にマイナスなイメージがあることも挙げられます。体力的・精神的にきつい、給与を含めた雇用面での待遇が悪い、利用者さんや職員同士での人間関係の構築が難しいといった印象は、職場環境を改善して早急に払しょくする必要があるでしょう。

センサー・ロボット・ICTの活用

人手が足りていなければ、職員一人当たりに課せられる業務の負担割合が大きくなります。人手不足が続いている状況であれば、センサーやロボット、ICT機器を導入することで職員にかかる負担が軽減できるかもしれません。職員一人ひとりの負担が減ることで心のゆとりが生まれ、利用者さんとの良好な関係も築きやすくなるでしょう。

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新設された制度を活用して業務改善に取り組もう

生産性向上推進体制加算は、介護現場の業務改善に取り組む事業所にとって有益な制度です。積極的な環境改善は、人手不足による影響を軽減できるだけでなく、利用者さんと職員の良好な関係を築くための手助けにもなります。算定要件を十分に押さえた上で、より効率良くサービスが提供できるよう改善してみましょう。

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