【介護施設の食中毒】勉強会を開催して介護スタッフ間で手順を共有しよう
食中毒は一般的に、5月から9月頃増加すると言われていますが、寒い時期に活発に活動するウイルスもいるため1年中注意が必要です。介護施設など高齢者が集まる場所で食中毒が発生すると、瞬く間に感染が広がることも。食中毒が疑われる症状が見られたらすぐに対処しなければなりません。そこで今回は、介護施設で食中毒が発生した場合の手順について紹介します。勉強会を行い、スタッフ全員で情報を共有しておきましょう。
目次
もしかして食中毒?嘔吐や下痢…こんな症状が出たら注意!
高齢者は、若い方と比べると免疫力が低下している可能性が高く、食中毒を起こすと重症化する恐れがあります。また、たった1人の食中毒症状が、介護施設内にあっという間に広がってしまう…ということも考えられるでしょう。
感染拡大を防ぐには食中毒を出さない対策が重要ですが、万一発生した際に早めの対応ができるかどうかもポイントになります。ここでは、食中毒がどのくらいの期間で発症するのか、また、食中毒が疑われる具体的な症状についても見ていきましょう。
食中毒はどのくらいの期間で発症するの?
食中毒を引き起こす菌やウイルスの種類はさまざまです。原因となる食べ物を食べてからすぐに症状が出るものや、1週間以上経って症状が出るものも。症状が出るまでの期間を「潜伏期間」と言います。
具体的に言うと、黄色ブドウ球菌が作る毒素やきのこなどの自然毒由来の食中毒は、食べてすぐに発症する傾向にありますが、ノロウイルスの潜伏期間は24時間から48時間です。カンピロバクターが原因だと、潜伏期間は2日から7日と言われています。
どんな症状が出る?
食中毒の主な症状は、吐き気や嘔吐、腹痛、下痢などです。原因となる菌やウイルスによって、症状もさまざまで、発疹や水様性の下痢・血便・発熱・しびれ・倦怠感などが出るケースもあります。
よく起こる食中毒の主な症状を以下にまとめました。
原因となる菌・ウイルス | 症状 |
---|---|
自然毒 | 嘔吐・しびれ |
化学物質 | 吐き気・嘔吐・発疹 |
黄色ブドウ球菌やウエルシュ菌 | 吐き気・嘔吐・下痢 |
腸炎ビブリオ | 腹痛・水様性の下痢・吐き気・嘔吐・発熱 |
サルモネラ属菌 | 水様性の下痢・腹痛・発熱 |
ノロウイルス | 吐き気・嘔吐・腹痛・水様性の下痢・発熱 |
カンピロバクター | 水様性の下痢・発熱・吐き気・倦怠感 |
腸管出血性大腸菌(O157など) | 水様性の下痢、・血便・腹痛 |
原因となる菌やウイルスによって症状が多様であること、潜伏期間の違いについてもスタッフ間で情報共有しておきましょう。いざというときに「これが原因かも…」と原因を突き止めやすくなるかもしれません。
手順1.利用者さんの症状や施設全体の把握が優先
介護施設では高齢者が多数集まるため、食中毒には万全の対策を行っているはずです。多くの介護施設では、厚生労働省が公表している「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」をもとに、食中毒の対応していることでしょう。
このマニュアルでは、感染対策の基礎知識から高齢者介護施設における、食中毒の感染管理体制・職員研修・衛生管理・感染対策・高齢者の健康管理などがこと細かくまとめられています。介護スタッフとして働く際に理解している方も多いと思いますが、この機会に見直しておきましょう。
ここからは、介護施設で食中毒が発生した場合の対応について詳しく紹介します。初期の手順は以下の通りです。
- 症状が出た利用者さん・他の利用者さんの症状把握
- 施設内で状況の共有
- 感染拡大の防止
介護施設に入所している高齢者の1人に、嘔吐や下痢の症状が出たとしましょう。まずは、いつから症状が出ているのか、どんな症状が出ているのかを把握してください。同時に、同じような症状が出ている利用者さんが他にいないか確認しましょう。
利用者さんだけでなく、介護スタッフなどの職員の健康状態をチェックすることも忘れないでください。施設内の感染対策担当職員が、状況を施設長に適宜報告しながら、施設全体の発生状況把握に努めましょう。
施設長から医師や看護職員に治療の依頼を行い、検体の確保や、診察・医療処置が行われます。処置をしながら、看護職員や介護スタッフによって感染拡大防止の対策を実施。消毒や衛生管理の徹底などを行います。
手順2.自治体や保健所への報告
食中毒などの感染症発生時の対応フローとしては、基本的には施設内での対応でOKです。しかし、以下のような場合は、自治体や保健所へ報告しなければなりません。
- 死亡者や重篤患者が1週間に2人以上
- 感染症が疑われる者が10人、または入所者の半数以上
- 通常の発生動向を上回り対応が必要な場合
報告内容は、人数や症状、対応状況などです。もちろん症状が出た場合には、利用者さんのご家族にも報告する必要があります。
報告を受けた保健所は原因究明のため調査を行い、今後のために指導を実施。調査報告を真摯に受け止め、再発防止に努めましょう。
手順3.再発防止対策を再確認
保健所による調査結果が出たら、調査結果をもとに再発防止対策を検討しましょう。保健所への報告義務がない場合でも、食中毒が発生した際には、原因を突き止め、再発防止を図る必要があります。
食中毒を予防するためには、①病原体の排除②感染経路の遮断③宿主抵抗力の向上の、3つの要素が欠かせません。
食中毒の感染者が出た場合、感染者の嘔吐物や排泄物、血液などには、食中毒の原因となる菌やウイルスが含まれている可能性があります。絶対に素手で触らず、手袋を着用しましょう。手袋使用後は手洗い消毒も必要です。
食中毒の感染経路は、主に手指や食品、器具などからの接触感染と言われています。病原体を持ち込まない、持ち出さない、拡げないことがポイントです。介護スタッフは普段から利用者さんに長時間接するため、排泄物の処理などの際は必ず手袋を着用してください。
利用者さんの家族などの面会者やボランティア、実習生にも食中毒の対策について説明する機会を設けても良いでしょう。
最後に重要なのが、宿主抵抗力の向上です。高齢者は免疫力が低下している可能性があります。抵抗力向上を目的に、十分な栄養管理や睡眠時間の確保、適度な運動を行いましょう。
介護施設で食中毒が疑われる症状が出たらすぐに対応を
介護施設では、食中毒などの感染症に対してすでに万全の体制を取っているはずです。しかし、ちょっとした油断で、食中毒が発生してしまうことも。感染拡大を防ぐには迅速な対応が不可欠です。普段から食中毒が発生した際の施設内マニュアルを作成しておいたり、模擬的な訓練を行ったりすると、いざというときに慌てずスムーズな対応ができるでしょう。