【介護施設の食中毒】二次感染を防ぐための嘔吐物の処理方法とは?
食中毒は、細菌・ウイルス・自然毒など、さまざまな原因により年間を通して起こります。また高齢者は身体の抵抗力が弱まっており、少量の菌やウイルスなどによっても食中毒になりやすいのが特徴。もし介護施設の利用者さんや入居者さんに嘔吐がみられた場合には、食中毒の可能性もあるため迅速かつ適切に処理をしないと、感染を拡大させてしまいます。そこで今回は、介護施設における嘔吐物の適切な処理方法にスポットを当ててご紹介しましょう。
目次
突然の嘔吐!嘔吐物にはウイルスが含まれている可能性も
介護施設の利用者さんや入居者さんに突然の嘔吐がみられ、処理をした経験のある方も多いのではないでしょうか。ここでは、嘔吐の処理についての基本情報をまとめました。
嘔吐の原因に関わらず迅速な処理が必要
嘔吐には、腎臓病や薬の影響などで起こる中枢性の嘔吐と、消化器疾患など内臓からの反射により現れる末梢性嘔吐(反射性嘔吐)の2種類があります。嘔吐の原因を知るためには、医師による正確な問診が必要になり、嘔吐が起こった瞬間にその原因を判断することはできません。
もし嘔吐された方が食中毒を発症していた場合、嘔吐物には食中毒の原因となる菌やウイルスが含まれている可能性があります。そのため嘔吐物の処理が不十分だと、嘔吐物を介して、介護施設の他の利用者さんが食中毒を発症する危険性も…。また、高齢者は免疫機能が低下しており、少しの菌やウイルスが体内に入るだけで、食中毒を引き起こす恐れもあります。つまり嘔吐の原因が不明である以上、嘔吐物は適切かつ迅速に処理し、介護施設内での二次感染を防ぐことが重要なのです。
集団感染の恐れがあるノロウイルスには要注意!
特に注意したいのが、嘔吐した方がノロウイルスによる食中毒に感染していた場合。ノロウイルスは嘔吐や下痢などを引き起こす感染性胃腸炎の一種です。ウイルスの感染力が非常に高く、接触感染のリスクもあるため、嘔吐物から集団感染につながる可能性もあるでしょう。
ノロウイルスをはじめ、その他の食中毒に起因した嘔吐物の処理には、次亜塩素酸ナトリウムという消毒剤が有効です。次亜塩素酸ナトリウムとは、身近なものでいうと塩素系除菌漂白剤の主成分としても使われている成分。希釈率を調整することで、幅広い用途に使える消毒液ですが、介護施設での嘔吐物の処理には有効塩素濃度1000ppm(0.1%)以上の希釈液が推奨されています。
次亜塩素酸ナトリウムは作り置きNG!
突然の嘔吐に備え、消毒用の次亜塩素酸ナトリウムの希釈液を作り置きしているという介護施設もあるかもしれません。しかし次亜塩素酸ナトリウム希釈液の効果は、時間が経つと弱まってしまいます。消毒効果が薄れた消毒液を用いると、消毒自体が不十分になるだけでなく、消毒作業によって菌やウイルスを広げてしまう可能性も…。そのため、嘔吐処理が必要になったタイミングですばやく希釈液を作りましょう。
それでは、嘔吐物処理の詳しい手順を紹介します。
手順1:介護職員はマスク・ガウン・手袋・シューズカバー・メガネを装着
介護施設での嘔吐物処理に必要なアイテムは以下のとおりです。
- 手指洗浄剤
- 手指消毒剤
- 次亜塩素酸ナトリウム
- 防護具:保護メガネ、帽子、マスク、シューズカバー、使い捨て手袋
- 2枚重ねしたポリ袋をセットしたバケツ、ペーパー
- ガウン
- 手指用保湿ローションまたは保湿クリーム(必要に応じて)
介護施設では、食中毒による突発的な嘔吐への対応が必要になるケースも多いため、これらのアイテムを事前に準備しておくとよいでしょう。またアイテムの保管場所についても、介護職員間でしっかり共有しておくのがおすすめです。
嘔吐物を処理する際には、まず自身への感染を防ぐため、マスク・ガウン・帽子などの防護具を身につけます。次に、複数枚のペーパーを使って、嘔吐物を覆いましょう。
手順2:嘔吐物を広げないように拭き取る
ペーパーの上から、中央に向かうように嘔吐物を集め、拭き取ります。嘔吐物を拭き取ったペーパーは、2枚のポリ袋をセットしたバケツの中に入れましょう。ペーパーを入れ終わったら、内側にある1枚目のポリ袋の持ち手をしばり、手袋をはずして手指消毒をし、新しい手袋を装着します。使用済みの手袋は、しばったポリ袋の上に置いてください。
手順3:次亜塩素酸ナトリウムで消毒
再度新しいペーパーを敷き、その上から次亜塩素酸ナトリウムをまきます。このとき嘔吐物があった場所のみにペーパーを敷くのではなく、床や壁などできるかぎり広い範囲を処理しましょう。
そのまま10~15分放置したら、ペーパーを回収し、残った次亜塩素酸ナトリウムを中央へ向かって拭き取ります。その後、薬液残りを防ぐ(※)ため、流水で洗い流す、またはしっかりと水拭きをしてください。
※次亜塩素酸ナトリウムには金属を腐食させる作用があるため、液が残ると介護施設の基材を損傷させる恐れがあります。
拭き取ったペーパー、手袋の順でポリ袋に捨てます。そして、手指消毒をしたら再度新しい手袋を着用してください。
手順4:嘔吐物を入れたポリ袋を感染性廃棄物として処理
嘔吐物の処理が完了したら、防護具を脱ぎます。脱ぐ際は、シューズカバー→ガウン→帽子→メガネ→マスクの順で行いましょう。使用済みの防護具を2枚目のポリ袋に入れ、口をしばります。なお、廃棄物からの汚染が危惧される場合の対応として、廃棄物が十分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウムをポリ袋に満たす方法も有効です。ポリ袋は、感染症廃棄物として破棄してください。
処理後はすみやかに手洗いとうがいを行い、体内への菌やウイルスの侵入を防ぎましょう。嘔吐物の処理では手指の洗浄・消毒を繰り返し行うため、手荒れが気になる方も多いようです。そんな方は、保湿ローションや保湿クリームを使い、手指をケアしてください。
嘔吐物からの二次感染を防ぐには正確な処理がカギ
嘔吐物には、食中毒の原因となる菌やウイルスが含まれている可能性が否めません。そのため、介護施設の利用者さんや入居さんに食中毒を疑うような嘔吐がみられた場合は、迅速かつ正確に処理を行う必要があります。処理する際は、しっかりと防護具を身につけ、なるべく広範囲に消毒を施しましょう。また処理に必要なアイテムを事前に用意しておくこともお忘れなく!