介護施設で起こりやすい食中毒とは?5つの事例を紹介

身体の抵抗力が落ちている高齢者が、ひとたび食中毒を発症すると、重症化や死亡のリスクが高まります。そのため介護施設では、細心の注意を払って食中毒予防に努める必要があります。
そこで今回は、食中毒事故を発生させないために、介護施設などで実際に起きた食中毒事故を紹介。過去の事例から学び、現場に活かしていきましょう。

介護施設では食中毒が起きやすい?データで見てみよう

細菌が活発に活動しやすくなるのは、6月から8月の湿度と気温が高まる季節です。だからと言って、冬には食中毒が発生しないのかというと、そうではありません。ノロウイルスなどは11月から3月頃に多く発生するため、食中毒は1年中注意が必要です。

厚生労働省が発表した2021年の「原因施設別食中毒発生状況」を見てみましょう。

全体家庭事業場学校病院飲食店などその他
件数(件)71710631105565

発生状況を見ると、やはり家庭や飲食店などで発生することが多いものの、事業場での発生も多くなっています。事業場の中には保育所や寄宿舎、老人ホームなどの介護施設が含まれており、実はその中でもっとも食中毒の件数が多いのは老人ホームです。

老人ホームでの食中毒発生割合は、全体から考えると2.4%ほどですが、事業場の件数だけで見ると、31件のうちの55%ほど。老人ホームや介護施設などの高齢者施設では、食中毒が発生しやすいことが分かります。

さて、ここからは、食中毒の原因となる主な細菌・ウイルスと、その発症事例をご紹介します。

【O157】夏から秋に発生しやすい食中毒

腸管出血性大腸菌O157は、病原大腸菌の1種で、毒素を作り出し出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群を引き起こします。井戸水・牛肉・ハンバーグ・サラダ・メロン・日本そばなどから検出されたことも。

腸管出血性大腸菌O157は、しっかり加熱したり消毒薬を使ったりすることで死滅します

2011年に福岡の老人福祉施設で起きた事例では、給食のきゅうりが原因で、利用者さん6人に下痢や血便の症状が出ました。この事例では、きゅうりからのみO157が検出されています。

原材料をさかのぼって調査したものの、同じような事例はなかったようです。そのため、老人福祉施設で保管・調理する段階で、他のルートからの二次汚染を受けた可能性が高いという結論にいたりました。

【ウエルシュ菌】煮込み料理が原因になる?!

ウエルシュ菌は人間の腸管や土などに生息する細菌で、酸素がなくなったり栄養素が不足したりすると芽胞を作ります。芽胞は熱や乾燥、消毒剤にも強く、厳しい環境でも生き延びることが可能です。生育に適した環境になると、発芽して栄養細胞となり一気に増殖する仕組みになっています。

料理では、カレーや煮魚、野菜スープなどの煮込み料理が原因になることが多いです。すぐに食べないのであれば、芽胞が発芽しないように速やかに冷却しましょう。食品を冷却しないまま室温で長時間放置するのは危険です。

2016年、大阪の高齢者福祉施設にて発生した事例では、鶏と根菜の煮物からウエルシュ菌が検出され、利用者さん95人が下痢などの食中毒症状を発症しました。原因は、調理してから喫食までに時間がかかったことです。加熱調理終了から配膳までの1時間50分の間は室温で保管され、その後温冷配膳車内で1時間ほど加温されていました。

検出された菌数はさほど多くなかったようですが、患者さんが免疫抵抗力の低い高齢者だったため、発生した事例とも言えるでしょう。

【ノロウイルス】冬に多く二次感染の恐れがある

ノロウイルスは、秋から冬にかけて発生しやすく、感染力が非常に強いのが特徴。主に、ノロウイルスに汚染された二枚貝などの食品をしっかり加熱しないまま食べたり、井戸水を飲んだりすることで感染します。

ノロウイルス感染者の手や唾液、嘔吐物などから二次感染するケースも。ノロウイルスの感染を防ぐには、食品の中心部までしっかり加熱することが大切です。また、ノロウイルス感染者の看病を行う場合は、汚物処理後に手洗いや消毒を徹底する必要があります。

2003年、東京の高齢者福祉施設において発生した事例では、3施設にまたがって感染者が出る事態に。初発患者の感染源は不明なものの、発症者が約250人まで広がった原因が、ヒトからヒトへの接触感染だと結論づけられました。

【カンピロバクター】6月から9月に多発!

カンピロバクターは、牛・豚・鶏・犬・猫などの腸の中にいる細菌です。カンピロバクターが付いている肉を生で食べる、加熱が不十分だった場合に食中毒が起こります。基本的には空気に触れると死滅するものの、酸素濃度が低いところや低温でも生き残ることが可能です。

他の細菌と比べると、菌数が少なくても食中毒を発症するため、注意しましょう。発症後、関節炎や顔面麻痺などの神経系の病気であるギラン・バレー症候群を発症するケースもあるようです。

カンピロバクターによる食中毒を防ぐには、十分な加熱と、調理器具の管理や消毒、食肉調理後の手洗いが有効的。

2005年、大阪の小学校にて発生した事例では、鶏肉に付着したカンピロバクターが食中毒の原因に。鶏肉はワンタンスープに使われていたもので、加熱は十分に行われていました。しかし、調理前にじゃがいもやエッグサンドの近くに置かれていたことなどが関係し、じゃがいもやエッグサンドが二次汚染され、食中毒が発生したと結論づけられました。

【サルモネラ菌】乾燥に強い細菌

サルモネラ菌もカンピロバクターと同じように、牛・豚・鶏・犬・猫などの腸の中にいる細菌で、乾燥に強いのが特徴です。牛や豚、鶏の肉や卵が原因になることが多く、ペットやねずみから菌が付着するケースもあります。

サルモネラ菌による食中毒を防ぐためには、十分な加熱が必要です。また、生肉や卵を扱った手や調理器具をしっかり洗い、消毒しましょう。卵を生食する場合は、冷蔵庫で保管し、ひび割れのない、期限表示内のものを食べるようにしてください。

2005年に宮城の高齢者福祉施設で発生した事例では、サラダのかいわれ大根が原因でした。調査にてかいわれ大根が汚染された理由は分からなかったものの、汚染された種子から発芽した場合、可食部も汚染されることから、この事例では種子の汚染が疑われたようです。

介護施設の利用者さんを食中毒から守ろう

高齢者は細菌やウイルスに対する身体の抵抗力が低下している方が多いため、介護施設では食中毒に対してより厳密な取り扱いや管理が求められます。ちょっとした不注意によって、介護施設内の利用者さんに感染が広がってしまうかもしれません。食品などの適切な取り扱いと管理方法を、介護スタッフ間で共有しましょう。

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