高齢者の餅の窒息事故に注意を!介護施設で提供するときの5つの対策
高齢になると、噛む・飲み込むといった、食べる力が低下します。そのため、食べ物をのどに詰まらせる、窒息事故も少なくありません。中でも、正月などに食べる餅の窒息事故は、介護施設でも十分注意したいところではないでしょうか。そこでこの記事では、高齢者の餅の窒息事故を防ぐ対策について紹介していきます。今後餅を提供する可能性がある介護施設の方は、ぜひこの機会に注意点を確認してみてくださいね。
高齢者の餅による窒息事故はどのくらい起きている?
まずは、消費者庁が公開した「年末年始、餅による窒息事故にご注意ください!」という注意喚起の資料をもとに、窒息事故の現状を把握しておきましょう。
65歳以上の高齢者死亡数は年間3,500人以上!
厚生労働省の人口動態調査をもとに、消費者庁が作成したデータによると、食べ物の窒息で亡くなる65歳以上の高齢者は年間3,500人以上とのこと。そのうちの2,500人以上は、80歳以上の方だといいます。この中には、餅による窒息事故も含まれているほか、ミニカップゼリーや飴類、パンなどが原因の事故もあるそうです。こうした窒息事故は、食べ物自体の特性や、食べるときの環境などが関係して発生するといわれています。
正月は要注意!男性の窒息発生率が高い
さらに消費者庁では、人口動態調査の調査票情報を分析し、餅による窒息事故の割合を算出しました。そこで分かったのが、餅の窒息事故の43パーセントは、1月に発生しているということ。中でも、縁起物として餅を食べる習慣のある正月三が日の窒息事故発生率が高いといいます。また、窒息事故による死亡率は、女性よりも男性のほうが2.6倍も高い傾向です。こうしたデータからも分かるように、窒息事故によって亡くなる方は毎年一定数いるため、介護施設でも十分に注意しましょう。
餅の窒息事故が高齢者に起こりやすいのはなぜ?
高齢者で餅の窒息事故が起こりやすい主な理由には、食べる機能の低下が挙げられます。ここからは、どのような機能が低下しやすいのか、具体的に見ていきましょう。
噛む・飲み込む力の低下
人は食べるとき、噛んだり飲み込んだりを繰り返しながら、胃に食べ物を届けます。しかし、高齢になると噛む・飲み込む力が低下しやすいため、窒息事故のリスクが高まるのです。とくに、食事中にむせるようになったり、食べ物を口から頻繁にこぼしたりしている方は、噛む・飲み込む力が低下しているかもしれません。うがいが上手くできなくなったり、口の中に食べ物をためる時間が長くなったりしている方も注意が必要でしょう。
自分の歯が少ない
自分の歯が少ないことは、噛む力を低下させます。たとえば、奥歯がなくなったりすると、あごが安定しなくなるため噛めなくなってしまうのです。これは、入れ歯にしたときも変わりません。こうした噛む力の低下が、窒息事故のリスクを高めます。一方で、厚生労働省が運営するe-ヘルスネットの「歯の喪失の実態」によると、後期高齢者の残存歯は平均約16本とのこと。約3割の高齢者が総入れ歯を利用しているため、高齢者の食べ物による窒息が起こりやすいといえるでしょう。
誤って気管に入ってしまう
高齢になると、誤って気管に食べ物が入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起こりやすくなります。本来は、口に入れた食べ物を飲み込む際に、気管の入り口は閉じられ、食道の入り口が開くもの。この反応は「嚥下(えんげ)反射」と呼ばれています。しかし、高齢になるとこの反応が鈍くなるため、誤って気管に食べ物が入りやすくなるのです。餅の窒息事故の中には、こうした嚥下反射の低下が関係している可能性もあるでしょう。
唾液の量が少ない
高齢になると、唾液の分泌量が減る方も増えてきます。噛む力の低下が主な原因ですが、薬剤やストレスが影響していることも少なくありません。たとえば睡眠薬や鎮静剤などの中には、唾液の分泌を抑える薬があります。また、緊張すると口が乾きやすくなるように、ストレスも唾液の分泌に影響するのです。唾液の量が減ってしまうと、食べ物はスムーズに飲み込みにくくなります。高齢者の窒息事故は、こうした唾液量の変化が影響していることもあるでしょう。
高齢者の餅の窒息事故を防ぐための5つの対策
食べる力の低下などが原因となり、高齢者の窒息事故は発生します。ここからは、高齢者の餅による窒息事故を防ぐための5つの対策について見ていきましょう。
餅の特性を理解しておく
餅には、いくつかの特性があります。まず、温度が下がると硬くなること。お椀の中では一見柔らかそうな餅でも、口の中に入れてのどを通るころには温度が下がって硬くなるのです。さらに、餅は温度が下がるほど、粘膜などに貼りつきやすくなります。また、日本人にとってなじみ深い食材ではあるものの、米のように普段から食べ慣れているわけではありません。ほとんどの方が久しぶりに食べるため、提供する際には注意が必要です。こうした餅の特性を理解しておくことは、窒息を防ぐ上でも役立つでしょう。
小さく食べやすい大きさにする
餅の窒息事故を防ぐには、大きさにも工夫が必要です。切り餅であれば、そのまま提供せず、小さく食べやすい大きさに切って提供すると、リスクが軽減できるでしょう。また、近年は高齢者の窒息リスクを軽減するような餅の代用品も販売されています。利用者さんによっては、こうした食品を利用することが餅の窒息を防ぐ対策にもなるでしょう。
お茶などを飲んでから食べてもらう
食べる順番も、餅の窒息事故を防ぐことにつながります。とくに、高齢者は唾液の分泌量が減りやすいため、食べ始めに口やのどを潤すことが大切です。利用者さんに餅を提供する際は、お茶や汁物から飲んでもらうよう伝えるとよいでしょう。ただし、食べる順番が逆になるときは注意が必要です。口の中に餅を入れ、よく噛んでいない状態でお茶や汁物で流し込むと、窒息する危険性が高まります。こうした食べる順番にも十分注意するよう、利用者さんに呼びかけましょう。
ゆっくりと噛むよう伝える
食べ方で利用者さんに伝えておきたいポイントは、ゆっくりと噛むことです。ひと口の量は無理なく食べられる大きさで、よく噛んでから飲み込むことを提案しましょう。たとえ調理の段階で小さく切っていたとしても、利用者さんの中には1度に2~3個を食べようとする方がいるかもしれません。複数個を口に入れると、のどの奥でくっつく可能性があるため、大変危険です。介護職の方は、1つずつゆっくりと噛むよう、声かけを行いましょう。
食べている様子に注意を払う
周囲の方が利用者さんの食べている様子に注意を払うことも、対策になります。食べる順番や食べ方など、できるだけ多くの方で見守るようにするとよいでしょう。また、万が一餅を詰まらせたときの応急処置を知っておくと安心です。介護施設ごとに行える工夫を凝らし、利用者さんに安全に餅を提供しましょう。
高齢者は餅の窒息率が高い!提供するときは十分な対策をとろう
食べる力の低下により、高齢者の食べ物による窒息事故は発生します。とくに、口の中に貼りつきやすい餅の窒息事故には十分注意しましょう。介護施設などで提供する際は、小さく切ったり、食べる順番を工夫したりするとリスクが軽減できます。正月などにも適した食材のため、十分な対策をとりながら安全に提供していきましょう。