高齢者うつ病の症状とは?認知症との関連や原因を知ろう!

高齢者うつ病は、高齢者特有の原因から発症するうつ病です。典型的なうつ症状が現れる方は少ないため、一見すると老化や認知症と間違われることもあります。そのため、高齢者うつ病の症状を知り、疑いのある利用者さんがいた場合には適切な対応をすることが大切です。この記事では、高齢者うつ病の症状をはじめ、認知症との関連や原因について解説していきます。介護職として働く方は、ぜひご覧ください。

高齢者うつ病(老人性うつ病)とは?

高齢者うつ病(老人性うつ病)とは、定年退職や身近な方との死別、身体的な不調など高齢者特有の原因から発症するうつ病のことです。一般的な老化現象とは異なる症状で、通常のうつ病の診断基準では見落とされやすいといわれています。

そもそもうつ病とは?

うつ病とは、精神的・身体的なストレスなどを背景に、脳の機能がうまく働かなくなる疾患です。日本では100人に約6人の割合でうつ病の経験があるといわれており、男性より女性のほうが1.6倍程度多いことが知られています。感情や意欲に関わる脳の働きに不調が生じて発症すると考えられていますが、その原因は今のところ正確には分かっていません。厚生労働省が公表した「うつ対応マニュアル-保健医療従事者のために-」によると、うつ病の症状は以下のとおりだといわれています。

【うつ病の症状】

  1. 強いうつ気分
  2. 興味や喜びの喪失
  3. 食欲の障害
  4. 睡眠の障害
  5. 精神運動の障害(制止または焦燥)
  6. 疲れやすさ、気力の減退
  7. 強い罪責感
  8. 思考力や集中力の低下
  9. 死への思い

引用:厚生労働省「うつ対応マニュアル-保健医療従事者のために-(資料1:うつ病について)」

高齢者うつ病で見られやすい症状

高齢者うつ病の場合、前述のような典型的なうつ病の症状が現れる方は1/3から1/4しかいないといわれています。症状の一部が強く現れたり、反対に弱く現れたりすることが多いため、通常の診断基準ではうつ病と見なされないことも多いようです。一方で、高齢者うつ病特有の症状では、次のような点が指摘されています。

  • 悲哀の訴えが少なく、気分低下やうつ思考が目立たない
  • 症状がそろっていないうつ病の頻度が高い
  • 意欲や集中力の低下、精神運動遅延が目立つ
  • 健康状態が悪く、気分や意欲の低下、認知機能障害が見られる
  • 心身のささいな不調へのこだわりが強くなるなど、心気的な訴えが多くなる
  • 不安症状とうつ病が併存している

参考:厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)について 資料8-1 高齢者のうつについて」

高齢者うつ病の特徴

高齢者うつ病の症状は、次のようにいくつか他の年齢層の方と異なる特徴があります。

心身機能の低下と共に起こりやすい

高齢者うつ病の症状として特徴的なことは、心身機能の低下と共に発症しやすいことです。心と体が連動していることは幅広い年齢層でいわれることですが、高齢になるととくにこの結びつきが強くなりやすいといいます。例えば、脳卒中によって半身麻痺となった方がうつ病を発症し、運動能力の回復が遅れることもあるようです。さらに、回復の遅れが不安を引き起こし、うつ病が悪化した例もあるといいます。このように、心身機能の低下が相互に影響していることは、高齢者うつ病の特徴といえるでしょう。

認知症と合併することが多い

高齢者うつ病は、認知症と合併することが多い疾患です。認知症外来に訪れる5人に1人が高齢者うつ病であるといわれています。高齢者うつ病の症状が現れ、考えることや集中することができなくなり、認知症のように見えることがあるようです。また、認知症の前触れとして、高齢者うつ病の症状が現れることもあります。このように、認知症との関連性が指摘されているため、疑いのある症状が現れた場合には、専門の医師のもとを受診することが大切です。

生活習慣病と関連しているケースもある

高齢者うつ病は、生活習慣病と関連している可能性も指摘されています。具体的には、糖尿病や喫煙、高血圧などは高齢者うつ病のリスクを高める要因です。とくにうつ病と糖尿病は相互に影響を与え合っており、うつ病患者の糖尿病発症リスクは1.6倍、糖尿病患者のうつ病発症リスクは1.15倍高いといいます。そのため、高齢者うつ病を予防するためには、生活習慣病にならないよう身体管理することも重要です。

高齢者うつ病の原因

高齢者うつ病の症状が現れる原因は、主に次の2つであるといわれています。

身体疾患や死別などライフスタイルの変化

1つ目は、病気などにより身体機能に障害が出たり、身近な方と死別したりといったライフスタイルの変化です。とくに、大小さまざまな喪失体験が増えることが、高齢者うつ病の引き金となりやすいといわれています。年齢を重ねるとこうした喪失体験は避けられないため、高齢者はうつの症状に陥りやすい環境にいるといえるでしょう。

人間関係などから生まれる慢性的なストレス

2つ目は、周囲の方との人間関係から生まれる慢性的なストレスです。老年期になると依存的な面や几帳面な性格といった、パーソナリティ傾向が顕著になりやすく、人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。また、これまで他者と信頼できる関係性を築くことが難しかった方は、この時期に孤立しやすくうつ病に陥ることも少なくありません。さらに、人によっては寒い時期などに外出頻度が減り、季節性のうつ病を発症することもあります。このように、周囲とのつながりの有無が原因となり、高齢者うつ病の症状が現れることもあるでしょう。

▽「冬季うつ」の予防のポイントはこちらの記事から!

高齢者うつ病が疑われるときの対応法

高齢者うつ病の症状が見られる方は、通所リハビリテーションや機能訓練など、集団対応が可能な場所に出てくることは難しいと考えられています。そのため、介護の現場では訪問介護の際などに、対応を求められることが多いでしょう。高齢者うつ病の症状が疑われる利用者さんの対応をする際には、次のポイントを覚えておくと安心です。

【対象者に接する際の10の留意事項】

  1. 何よりまず、対象者との信頼関係の構築を目的とする
  2. 時間的なゆとりを持ちつつも、ある時間を区切って話をする
  3. 他の人に聞かれる心配がなく、当事者が落ち着いて話せる場所(部屋)を選ぶ
  4. 対象者と90~120度の角度で向き合うような座り位置になるよう工夫する
  5. オープンな質問を心がけ、対象者が自分を語る手助けをする
  6. 励まさず、かつ話の腰を折らないよう、きちんと聞いている姿勢を示す
  7. 結論を急がず、本人が話しにくそうな話題については、深追いしない
  8. 不明な点を質問しながら、具体的な問題点を整理し、解決方法を一緒に考える
  9. うつ及び精神科医療についての理解を深め、必要に応じて受診勧奨を行う
  10. 緊急性が高い場合(自殺念慮・衰弱・激しい焦燥等)の対応を適切に行う

引用:厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂:平成24年3月)について 資料8-1 高齢者のうつについて」

なお、厚生労働省が示す「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)について」ではこの他に、利用者さんへの声かけやの家族への対応法などについても記載されています。詳細を知りたい方は、ぜひご確認ください。

▽厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)について 資料8-1 高齢者のうつについて」

https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-siryou8-1.pdf

高齢者うつ病の症状を知って適切に対応しよう!

高齢者うつ病は、気分の低下が目立たないなど、典型的なうつ症状と異なるため見逃されることがあります。しかし、年齢を重ねると身体機能の低下や身近な方との死別などの喪失体験から、うつ病を発症する方が少なくありません。高齢者うつ病の症状を知ることで、利用者さんの変化に適切に対応していきましょう。

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