耳が遠い高齢者への接し方は?介護職が知っておきたいポイント
介護の現場では、加齢性難聴で耳が遠い利用者さんと接する機会が多いものです。皆さんの中にも聞こえづらい高齢者への接し方に悩んでいる、という方がいるのではないでしょうか。しかし、話し手のちょっとした工夫で難聴の方ともスムーズに会話ができるようになります。今回は、加齢性難聴がどのような症状なのかを解説するとともに、耳が遠い高齢者への接し方をご紹介しましょう。ぜひ、聞こえづらい利用者さんと会話をする際に役立ててください。
加齢性難聴とは
耳が遠い高齢者への接し方を紹介する前に、高齢者に多くみられる「加齢性難聴」について解説します。加齢性難聴とは、加齢と共に音が聞こえづらくなる症状です。
聴覚は、鼓膜と耳小骨(じしょうこつ)を伝わってきた音が、内耳(ないじ)の感覚細胞を振動させて電気信号になり、脳まで伝わることで成り立ちます。加齢性難聴は、内耳の感覚細胞が年齢によって減少していくことで起こる病気です。
残念ながら一度失われた感覚細胞をもとに戻すことはできません。しかし、補聴器を使うことによって生活に必要な音を聞き取ることが可能です。
加齢性難聴の特徴
ここでは加齢性難聴の特徴を紹介します。耳が聞こえづらい高齢者への接し方を考えるうえで非常に大切なポイントなので、ぜひ覚えておいてください。
高い音から聞こえづらくなる
一般的に加齢性難聴は、体温計の音や家電製品の電子音、電話の呼び出し音など、高い周波数の音から聞こえづらくなります。症状が進むと、会話などが聞き取りづらくなるでしょう。
割れたりゆがんだりした音に聞こえる
音に含まれる微妙な周波数の違いが分からなくなるので、音が割れたりゆがんだりして聞こえます。それに伴って、「うし」を「いし」と、「タンス」を「パンツ」と聞き間違えるなど、言葉の違いも判別しづらくなり、会話やコミュニケーションに支障をきたすようになるでしょう。
症状に気づきづらい
前述したとおり、加齢性難聴は電子音などの高い音から聞こえづらくなります。そのため初期のころはなかなか聞こえづらさを自覚できません。症状が進み、会話やテレビ、ラジオなどの音が聞こえにくくなって初めて「なんだか聞こえづらいな」と感じるケースが多いようです。
早口が聞き取りにくい
加齢性難聴になると、内耳から脳へと伝わるはずの多くの情報が経路の途中で欠落するため、耳に入ってきた言葉の内容を理解するのに時間がかかります。そのため、早口の言葉が聞き取りづらくなるのです。この症状を「時間分解能の低下」と言います。
テレビで若いタレントさんが早口で話している内容を聞き取れず、家族が笑っているのにおじいちゃんやおばあちゃんだけ笑っていないというケースは、時間分解能の低下の典型的な一例でしょう。
小さな音は聞こえづらいが大きな音はうるさく感じる
テレビの音が聞こえづらそうだったのでボリュームを上げると、騒がしいシーンで「音が大きすぎる」と驚かれた、という経験をしたことはありませんか。また、何度呼びかけても返事がないので大声で呼びかけたら「そんな大きな声を出さなくても聞こえる!」と利用者さんに怒られた…という方もいるでしょう。これらのトラブルは、加齢性難聴が原因かもしれません。
加齢性難聴になると、小さな声は聞き取りづらいのに、大きな声はうるさく感じるようになります。これは、「リクルートメント現象」と呼ばれるもので、一定以上の大きさの音が通常よりも響いて聞こえて苦痛に感じてしまう症状です。
耳が遠いと認知症や鬱の原因に
加齢性難聴は認知症や鬱の引き金になってしまうことがあります。難聴になると、耳から脳へと伝達される情報量や音による刺激が極端に少なくなってしまい、脳の萎縮や神経細胞の弱まりが進んでしまうとされているのです。
また、難聴になると相手の言うことが正確に聞き取れず、何度も聞き返して怒らせてしまったり、会話がかみ合わなくなったりします。中には、「何度も聞き返すのは申し訳ない」と思って、そのまま黙ってしまったり、分かったりをしたりする方もいるでしょう。
このように、コミュニケーションがうまく取れない経験を繰り返してしまうと、他人と交流するのが怖くなったりわずらわしくなったりする恐れがあります。その結果、人と接する機会を避けるようになってしまうかもしれません。社会交流が減った高齢者は認知機能が低下するだけでなく、抑うつ状態に陥ってしまうこともあるのです。
耳が遠い高齢者への接し方のポイント
加齢性難聴の方とのコミュニケーションをスムーズにするには、いくつか気をつけたいことがあります。ここでは、接し方のポイントを具体的にご紹介しますので、耳が遠い利用者さんと会話する際の参考にしてください。
まず相手の注意を引く
難聴の方は、話の始まりを聞き逃してしまうことが多いので、耳が遠い高齢者と会話するときは、いきなり話しかけるのではなくまず相手の注意を引きましょう。注意を引くことで、相手に「今から話しかけられるんだな」という心の準備をしてもらうのです。
具体的には、視線を合わせたり、「○○さん」「ちょっといいですか?」などと声をかけたりしてください。身を乗り出したり、手や体に触れたりするなど、身振りで合図をするのもよいでしょう。ただし相手の身体に触れる際は、びっくりさせたり不快に感じさせたりしないよう、きちんと配慮することが大切です。
相手の顔を見て話す
真正面から話しかけるようにするのも耳が遠い高齢者への接し方のポイントです。相手の横や後ろから話しかけると聞き取りづらいですし、耳元で話しかけるとコミュニケーションを楽しめません。
会話をするときは相手と向かい合って、顔を見ながら話しかけましょう。口の動きを見せてあげることで、言葉が理解しやすくなります。また、相手の表情を確認しながら、声の大きさを調節しましょう。お互いの表情が見えることで、心の動きも伝わりやすくなります。片耳に補聴器を付けている方と話すときは、付けている側から話しかけるようにしてください。
いつもより大きめの声でゆっくりと話す
耳が遠い高齢者への接し方で、やってはいけないのが「早口で話すこと」です。加齢性難聴の方は音を聞いてから意味を理解するまでに時間がかかってしまうので、早口で話しかけられるとスピードについていけません。普段よりも少し大きめの声で、ゆっくり話しかけましょう。
話すときは言葉の始まりに注意して、一音一音を区切るのではなく、「今日は・良い・天気ですね」という風に、言葉のまとまりで区切ってください。また、カ行・サ行・タ行・パ行の音は特に聞き取りづらいので、聞き取りやすいよう明確に発音しましょう。
筆談や身振り手振りも交える
耳が遠い高齢者との接し方で大切なのは、視覚的に理解できるように工夫することです。筆談や身振り、手振りなども積極的に交えましょう。話し手がマスクをしていると口元が隠れ、言葉も不明瞭になってしまいます。筆記具や紙、文字盤やイラストを指すことで意思を伝えられるコミュニケーションボードなどを持ち歩き、活用するのもおすすめです。
大切なのは「伝えたい」という思いを持つこと
加齢性難聴の利用者さんとなかなか意思疎通ができず、イライラしてしまう…ということもあるでしょう。しかし、一番不便な思いをしているのは、ほかでもないご本人です。加齢性難聴の症状をしっかりと理解して、「どうすれば相手が理解しやすいか」を考えて話しましょう。それが、耳が遠い高齢者への接し方で大切なことです。