認知症の帰宅願望とは?「帰りたい」原因と対応方法
認知症の方のなかには、夕方になると「家に帰りたい」と言い出したり、突然「家に帰る」と言って、外に出ていこうとしたりするケースがあります。これは、帰宅願望と呼ばれる認知症の方にあらわれやすい症状です。ただし、人によって症状の出るタイミングや対応方法が異なります。そのため、帰宅願望のある利用者さんがいる場合、症状を見極めて適切な対応をしなければなりません。そこで今回は、認知症の方の帰宅願望について、原因や対応方法を見ていきましょう。
認知症の帰宅願望とは?
まずは、認知症の帰宅願望がどういうものなのか、具体的にどんな症状が出るのかを紹介します。
認知症の帰宅願望について
認知症の帰宅願望とは、その名の通り、住み慣れた場所に帰りたくなる症状のことです。「家に帰りたい」「家族に会いたい」と思う気持ちは誰にでもあるものですが、一般的に、どういったときに「家に帰りたい」や「家族に会いたい」と考えるでしょうか?
それは不安なときや居心地が悪いと感じたときです。認知症の方も、不安感や居心地の悪さなどが引き金となって、帰宅願望が強くなることがあります。
具体的にはどんな症状が出る?
具体的にはどんな症状が出るのでしょうか?2つの事例を紹介します。
<その1>
夕方になると「夕飯を作らなきゃいけないから帰りますね」と介護スタッフに伝えて帰ろうとしました。介護スタッフが引き止めると、振り払って出口へと向かって行かれます。
<その2>
介護施設に入所してすぐのこと。数日の宿泊のように感じていた利用者さんは、自分が管理していた財布を施設側で管理されることに不安を感じ、「家に帰りたい」や「家族の体調が心配だから帰りたい」と言い始めます。
いずれも利用者さんの気持ちに寄り添い、原因を探ってケアしていくことで、帰宅願望は和らいでいきました。
認知症における帰宅願望の原因
帰宅願望の原因は、人によってさまざまで、シチュエーションも異なりますが、いくつかの原因はわかっています。ここでは、認知症における帰宅願望の原因について見ていきましょう。
認知症の症状
認知症の主な症状として、記憶障害や判断力の低下などがあります。
家族の顔を見ても、誰だかわからなくなってしまう方も。住み慣れた家にいても、長年住んでいる施設にいたとしても、「知らない場所に連れてこられた」という認識になってしまう場合があるのです。
例えば、ご自身がいる場所や、時間がわからなくなったと仮定してみてください。とても不安な気持ちになって、どうにかして家に帰ろうと考えることもあるはずです。
このように、認知症が原因となって帰宅願望が強くなると考えられています。
夕暮れ症候群によるもの
夕暮れ症候群とは、外が薄暗くなると「家に帰る」と言い出したり、急にそわそわしたりすることです。医学的には解明されていませんが、認知症の方が、毎日過ごしている介護施設を「自分の居場所ではない」と認識してしまうと、起こりやすくなります。
また「家に帰る」といっても、本当の自宅ではなく、小さい頃に過ごした街を故郷のように感じている・若い頃に過ごした家を指すことも。
こういった介護スタッフの時間の認識と、認知症になっている利用者さんの時間の認識に乖離がある場合にも、帰宅願望は起こりやすいと考えられています。
利用者さんを取り巻く環境
介護施設や自室の雰囲気がしっくりこないという理由でも、帰宅願望が起きやすいでしょう。また、環境とは生活環境のことも指すため、生活するなかで関わる人間関係が影響することもあります。
例えば、人間関係も居心地も悪い環境に住まなければならないと考えてみてください。認知症の方に限らず、誰でも不安な気持ちになり、その場から逃げ出したくなるはずです。
帰宅願望の対応には、「自分だったらどんな気持ちになるだろうか」という点を意識すると、解決しやすくなるでしょう。
その他の要因
その他の要因として考えられるものは、生理的な欲求が満たされないことです。具体的には、のどが渇いた、眠い、お腹がすいたなどが挙げられるでしょう。生理的な欲求が満たされないと、不安になり、そわそわしたり機嫌が悪くなったりすることがあるのです。
認知症の症状がない場合、自分がどのようなものを求めているかや、解決方法が分かるため、原因を取り除けます。しかし、認知症の方は、何が原因となって自分の気持ちの安定を崩しているのかが分からなくなっていることもあるでしょう。結果、不安になって帰宅願望が強まるというわけです。
帰宅願望に対する対処法
帰宅願望における介護の目標は2つ。不安や焦りを緩和することと、帰宅要求の回数が減り表情が和らぐことです。では、どのように対処すれば良いのでしょうか。
環境面
まずは、利用者さんが落ち着けて、安心できる空間を作る必要があります。施設が「居場所だ」と思ってもらえる工夫として、利用者さんが居心地の良く感じる場所を専用の場所とし、席の位置を調整したり、なじみのあるものを近くに置いたりすると良いでしょう。
自室の扉に表札を掲示することもおすすめ。その際は、利用者さんの目線に合わせて掲示することがポイントです。自宅で使っていた芳香剤を置く、好きな音楽を流してリラックスする環境を整えるなどの工夫も良いでしょう。
光や音についても注意してください。認知症の方の場合、光や騒音、模様などの生活環境の刺激がストレスになって、過剰反応することがあります。
ただし、適度な刺激は、気持ちを和らげる効果があるため、まったくないというのはNGです。適度に調整しましょう。
コミュニケーション面
帰宅願望の症状が強い場合、徘徊しないようにと施設内に閉じ込めると、逆効果になってしまうケースがあります。
また、自分の役割を見出せないことから帰宅願望が強くなることも。こういった対策として、施設の外を散歩したり、他の方に何か教えたりするなど、地域の方と交流する場面を作ると良いでしょう。
行動面
規則正しい生活はとても良いことですが、生活習慣がかえって帰宅願望を強めていることがあります。そういったケースでは、あえて習慣を崩すようにすると良い場合も。
例:
利用者さん「朝は会社に行く」
介護スタッフ「今日はお休みですよ」
利用者さん「夕食の準備に帰らなきゃ」
介護スタッフ「今日は泊っていく予定でしたよ」
利用者さんを否定しない程度に声かけし、少し生活習慣を崩すことで、利用者さんが不安になることを防げるでしょう。
帰宅願望のある方に絶対にやってはいけないこと
最後に、帰宅願望のある方に、絶対にやってはいけないことを紹介します。
急に利用者さんが「家に帰る」と言い出すと、慌ててしまうはずです。その慌てぶりが、さらに利用者さんが家に帰りたくなる原因になることもあります。以下の内容を参考に、気をつけてみてください。
ネガティブにとらえる
帰宅願望自体はごく当たり前のことで、異常行動ではありません。慣れないところに住んで、ホームシックになれば帰りたくなりますよね。コミュニケーションをとれないと不安になるものです。
帰宅願望をネガティブにとらえたり、過剰に反応したりすることは控えましょう。まずは、帰宅願望の理由や目的が、利用者さんにとって有害かどうかをチェックします。有害と判断すれば、利用者さんの不安や孤独感などを取り除く対策を考えていくと良いでしょう。
行動を抑制する
介護スタッフにも言わず外出するようになると、事故の危険があるため、利用者さんを止めなければなりません。だからといって、部屋に閉じ込めたり外に出られないようにしたりすると、ストレスを強めてしまう結果となる可能性があります。
利用者さんへの声かけを工夫する、根本的な理由を見つけ対処する、居心地の良い環境を整えるなどの対応をしましょう。
ごまかしたりその場限りの行動をしたりする
利用者さんに強く言われてしまうと、介護スタッフのなかには「今日はやめて明日にしましょう」など、ごまかしたりその場限りの行動をしたりせざるを得ないケースもあります。
しかし、これでは問題を先送りしただけです。利用者さんはさらに不安になってしまうかもしれません。利用者さんの話を聞いて、利用者さんの気持ちを考えることが、帰宅願望を緩和する近道です。
利用者さんと向き合うことが重要!
帰宅願望は、誰にでも起こり得るものです。ないがしろにしたり、部屋に閉じ込めたりすることがあってはいけません。認知症の帰宅願望がある利用者さんに限らず、利用者さんの話に耳を傾けて問題解決する姿勢が大切です。その場限りの言動は、すぐに見抜かれます。帰宅願望の背景にあるものを見つけて、自然な形で利用者さんがリラックスできる環境を整えていきましょう。