老人福祉法とは?概要や改正内容についてわかりやすく解説
介護職に就く際、関連する資格や法律の知識を身につけて働きたいと考える方も多いでしょう。ここでは、日本の高齢者福祉を支える法律のひとつである老人福祉法について解説していきます。老人福祉法が制定された背景やこれまでに行われた改正内容には、どういったものがあるのでしょうか?これから介護の世界へ転職を考えている人や、現在介護職に就いていてさらに知識を身につけたいという人にもわかりやすくご紹介しますので、ぜひご一読ください。
【わかりやすく解説】老人福祉法とは?
老人福祉法とは、1963年に厚生労働省によって施行された、高齢者の生活安定のために必要な措置を行い、福祉を図るための法律です。老人福祉法は、生活保護法や社会福祉法などとともに、福祉八法と呼ばれており、福祉・介護業界に携わるなら知っておきたい法律のひとつといえるでしょう。
老人福祉法では、都道府県や市区町村に対し老人保健福祉計画の作成を義務付けています。老人保健福祉計画とは、高齢者が自立した生活を送るために目指すべき政策目標を定め、実現のために取り組むべき施策をまとめた計画のことです。さらに、特別養護老人ホーム・軽費老人ホームなど7つを老人福祉施設として、老人デイサービス事業・老人居宅介護等事業など6つを老人居宅生活支援事業として定めています。
老人福祉法が制定された背景と目的
老人福祉法が施行された当時、日本は高度経済成長期の最中にあり、地方から都市部へ人口が流出し核家族化が進んでいました。それまで当たり前とされていた家庭内での高齢者の介護が難しくなり、家族や社会の在り方が大きく変化。その中で、高齢者問題に対応する法律として、老人福祉法が制定されたのです。
老人家庭奉仕員派遣事業(現在のホームヘルプサービスにあたるもの)が制度化されたのもこのときで、特別養護老人ホームなど老人福祉施設の整備も急いで進められました。ただ、老人福祉法が定める施設や事業を利用するには、所得制限があり、誰でも利用できたわけではありませんでした。当初は援助が必要な高齢者を公費で支える社会福祉という位置づけとなっていたようです。
老人福祉法は、高齢者の生活の安定や健康の保持を基本理念としています。高齢になっても自分の生き方を選択し、生きがいをもって自立した生活が送れるようにということを目的として制定された法律です。介護目的で制定された法律ではないという点に留意する必要があります。
これまでに行われた改正内容
老人福祉法が制定された背景として、家族や社会の在り方が大きく変わったことを先ほど述べましたが、家族や社会の在り方は時が経つにつれてどんどん変化しています。制定当時は、景気もよく高齢者の医療費が無償化された時期もありましたが、オイルショックにより経済成長率が伸び悩むと、医療費が財政を圧迫。そのため1983年に施行された「老人保健法」で高齢者の医療費が一部自己負担になるなど、社会の変化とともに法律の内容は改正を迫られてきました。これまでに行われた老人福祉法の改正内容は以下の通りです。
1973年
70歳以上の医療費を無償化する「老人医療費支給制度」を制定。この制度は、医療費による財政の圧迫を招いたため、1983年に施行された「老人保健法」とともに廃止されました。
1978年
寝たきり老人短期保護事業(ショートステイ)がスタート。
1979年
通所サービス事業(デイサービス)がスタート。デイサービス・ショートステイ・ホームヘルプの在宅三本柱が制度化されました。これによって、施設を中心に行っていた高齢者福祉に在宅サービスが追加され、選択肢が増加。
1982年
「老人保健法」の制定(施行は1983年)。この年は、高齢者医療が社会福祉から社会保険へ大きく変化した年でした。老人保健法とは、高齢者医療費の一部自己負担、病気の予防や治療・リハビリの促進などについて定めた法律です。この法律は、のちに後期高齢者医療制度に受け継がれました。
老人福祉法と老人保健法の違いは、高齢者福祉に関する仕組みや考え方が、公助から互助へと変わっていったという点でしょう。
1990年
都道府県と市区町村に対し、老人保健福祉計画の策定を義務付けました。これによって、市区町村を中心に、福祉行政の展開や老人保健福祉計画の基盤整備が促進されたのです。
1994年
老人福祉施設の規定の中に、老人介護支援センターが追加されました。
2000年
「介護保険法」の施行。老人福祉施設などを利用する際には、特別な事情がある場合を除き、原則として介護保険制度が適用されるようになりました。また、介護保険法の施行によって、老人居宅生活支援事業にグループホーム・小規模多機能型居宅介護事業などを追加しています。
2006年
有料老人ホームに関する定義が変更されました。有料老人ホームとは、高齢者が暮らしやすいよう配慮された生活施設のことです。改正前は高齢者が10人以上入居し、食事を提供している施設と定義されていました。しかし改正後は人員基準が撤廃され、食事もしくは介護の提供・洗濯や掃除などの家事・健康管理のうち、いずれかを行っていることが要件となっています。
介護保険法施行後で変わったこととは?
老人福祉法では、一定の基準によって市区町村が施設や事業の利用を決定していました。介護保険法が施行されたあとは、要支援や要介護の認定によって施設や事業の利用を自由に選ぶことができるようになったのです。今までは、介護が必要であっても、認定を受けていなければ施設や事業の利用はできませんでした。しかし、介護保険法によって利用できる事業の内容が多様化し、自由に選べるようになったという点が、大きく変わった点と言えるでしょう。
老人福祉法は介護サービスの基盤となった法律
戦後、日本は高度経済成長期を経てどんどん高齢化が進み、高齢者の医療や介護に対する関心が高まっていきました。そんな中で誕生したのが、老人福祉法です。現在の介護保険制度の礎である老人福祉法について知ることは、介護や福祉の歴史を知ることにもつながります。これから介護職に就く方や介護について理解を含めたい方には、ぜひ知っておいてほしい法律のひとつです。