介護保険法と老人福祉法の違いについてわかりやすく解説

我が国の高齢者福祉は、介護保険法と老人福祉法によって規定されています。なぜ、2つの法律が使用されているのでしょうか?そんな疑問を解くには、まずは介護保険法と老人福祉法の内容について知る必要があります。ここでは、介護保険法と老人福祉法の違いとともに、それぞれの法律についてもくわしく解説。2つの法律の内容や存在意義を知ることで、介護への理解をさらに深めることができるでしょう。

老人福祉法とはどんな法律?

老人福祉法は、厚生労働省が1963年に施行した法律です。当時、日本は高度経済成長期にあり、都市化や核家族化が進むなど家族の形が変わる中で、高齢化が進んでいることが問題とされていました。そうした高齢者問題に対応するために作られたのが、老人福祉法です。

老人福祉法では、高齢者が自立して安定した生活を送るために、高齢者福祉に関する施設や事業についてのルールを定めています。その1つが、都道府県や市区町村に対して義務付けている、理想の高齢者福祉を実現するための目標と取り組むべき施策をまとめた「老人保健福祉計画」の策定です。さらに、特別養護老人ホームや軽費老人ホームなどの「老人福祉施設」、デイサービスや訪問介護など在宅で介護サービスを受けられる「老人居宅生活支援事業」についても規定しています。

老人福祉法は、高齢者の生活の安定・心身の健康の保持などを目的としており、介護を目的に定められた法律ではありません。そのため、助けを必要としている人を公費で支えるという高齢者のための社会福祉制度という位置づけでした。当時は施設や事業を利用するには所得制限が設けられ、利用者さんによって施設の利用負担が変わっていたのです。

老人福祉法は時代の変化とともに内容も見直され、改正を重ねました。1970年代の好景気時には医療費が無償化されましたが、その後景気が下降すると、無償の医療費は財政を圧迫。1980年代には、高齢者の医療費は一部自己負担となりました。このように、時代の変化とともに高齢者福祉の在り方が見直され、公費負担の社会福祉から一部自己負担の社会保険へと変わっていったのです。

介護保険法とはどんな法律?

厚生労働省によって2000年に施行された介護保険法は、介護が必要な高齢者やその家族を社会で支え合う仕組みである「介護保険制度」について定めた法律です。

老人福祉法が施行されてから、少子高齢化が進み、介護の必要な高齢者の増加や介護期間の長期化など、介護のニーズが増大。従来の福祉や医療制度では高齢者問題に対応するのが難しくなっていきました。そこで、利用者本位・自立支援・社会保険方式を基本的な考え方として、1997年に介護保険法が成立し、2000年から介護保険制度がスタートしたのです。

介護保険制度は、介護保険法で定められた条件に該当し、要介護者・要支援者であると認定された人が利用できます。介護を必要とする状態でも、自立し安定した生活を継続するため、保険・福祉・医療が一体となって安心できる介護サービスを提供することが介護保険制度の目的です。

2000年に介護保険法が施行されて以降、約220万人だった要介護認定者は増加しており、2020年には約3倍の約670万人になっています。介護を取り巻く状況はどんどん変化しており、ニーズや時代に合わせて対応していくことが不可欠です。そのため、介護保険法は3年に1度ほどのペースで改正されています。

老人福祉法と介護保険法の違いとは?わかりやすく解説

介護保険制度は、時代や介護業界の変化にともない、老人福祉法では抱えきれなくなった問題点を改善するために、導入された法律です。現在では、老人福祉法で規定されている施設や事業を利用するときは介護保険制度が適用されるなど、運用面での役割はほぼ介護保険法に移行しています。そのため、現在では大きな違いはあまりありませんが、従来の制度から変わった点を挙げてみましょう。

介護保険法は利用者さんが保険料を納め、それをもとに給付を行う互助の仕組みなのに対し、老人福祉法は公費をもとに措置を行う公助の仕組みである点が大きな違いとい言えます。

また、老人福祉法では所得制限があり、市区町村がサービスや施設の種類を決めていたため、利用者さんに選択権はありませんでした。一方、介護保険法では、所得に関係なく介護認定を受けた方なら誰でも利用することができ、利用者さんがサービスの種類や事業者を選択できるという点も2つの法律の違いと言えます。

老人福祉法と介護保険法の違いは、「老人福祉法の問題を、介護保険法で改善した」と理解するとわかりやすいかもしれませんね。

施設や提供サービスなど仕事に関わる部分での違いについて

2000年に介護保険法が施行されてから、老人福祉法で定める施設や事業を利用する際には、原則として介護保険法が適用されるようになりました。しかし、特別な事情があるときには、老人福祉法に基づいて市区町村の権限が行使されることがあります。この特別な事情とは、家族から虐待を受けていたり、認知症やその他の理由によって意思能力が乏しく代理の家族などがいなかったりする場合です。これに該当する場合には、老人福祉法が適用されることがあります。

また、国が認可している公的な福祉施設においては、法律によって定められた運営や設備などの基準に従わなければなりません。同じような機能を持っているのに、この基準を定めている法律が異なる施設があります。それは、特別養護老人ホームと介護老人福祉施設です。特別養護老人ホームは老人福祉法、介護老人福祉施設は介護保険法が根拠法令となっています。名称は違っても、対象の利用者さんやサービスの内容について大きな違いはありません。

介護保険法と老人福祉法は高齢者福祉の基礎となる法律

老人福祉法は、日本の高齢者福祉の礎となった法律です。介護保険法は、老人福祉法をベースに、現在のニーズに合わせて改善して作られました。介護保険法と老人福祉法に違いはあれど、高齢者がより良い老後の生活を送るための制度という目的は同じです。老人福祉法が廃止されることなく現在も残されているのは、それぞれ別の法律として扱うのではく、相互に補完しながら、高齢者福祉を支えるためだと言えるでしょう。

この記事をシェアする