成年後見制度とは?制定の背景と介護サービスとの関係

成年後見制度という言葉を聞いたことがありますか?さまざまな理由で判断能力が不十分な方に代わって、後見人などが財産管理などを行う制度のことですが、実は介護サービスとも関係が深い制度です。成年後見制度を理解することで、利用者さんの権利を守り最適なサポートを提供することもできるでしょう。そこで今回は、成年後見制度とはどのような制度なのか、また制度ができた背景や目的、介護サービスとの関係について解説します。

【わかりやすく解説】成年後見制度とは?

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方の利益を守るための制度です。成年後見制度には任意後見制度法定後見制度があります。

任意後見制度とは、利用者本人があらかじめ選んだ任意後見人に、将来判断能力が不十分になった際、代わりに行ってほしい内容(身の回りの世話や財産管理、療養看護に関する事務など)を契約で決めておくことです(任意後見契約)。

任意後見契約は、公証役場にて公証人立ち会いのもと、公正証書を用います。その後本人の判断能力が低下した際に、本人またはその配偶者・四親等以内の親族・任意後見受任者が申し立てを実行。家庭裁判所が任意後見監督人を選び、任意後見契約の効力が発生するという流れです。

任意後見受任者とは、任意後見契約の効力発生後、任意後見人として本人の代わりに判断する方のことをいいます。任意後見監督人は、任意後見人があらかじめ契約した内容の通りに適切に仕事をしているかどうかをチェックする方のことです。そのため本人の親族などが任意後見監督人になることはなく、基本的には弁護士や司法書士などが選任されます。

次に法定後見制度についてですが、こちらはすでに判断能力が不十分になった方のために、家庭裁判所が成年後見人を選ぶ制度です。本人の判断能力の状態に応じて、補助・保佐・後見の3種類にわかれています。補助は判断能力が不十分な方、保佐は判断能力が著しく不十分な方、後見は判断能力が欠けているのが通常の状態である方が対象です。

成年後見人は、本人の法律行為を代理したり、本人の法律行為に同意したり、本人が同意していない法律行為を取り消したりできます。一方、補助人と保佐人の場合は、基本的には申し立てによって裁判所が定める行為の範囲内でのみ法律行為が行えます。

法定後見制度を利用したい場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、審判を受け、成年後見人を選任してもらいます。成年後見人になれる方は、本人の親族や弁護士、司法書士など裁判所が適任と判断した方です。

成年後見制度ができた背景と目的

次に、制度ができた背景と目的について見ていきましょう。
わかりやすく具体例を挙げると、たとえば認知症などで判断能力が不十分な方が、自分にとって不利益であることが理解できない状態で契約を結ぶと、悪徳商法などの被害に遭う可能性があります。こうした、判断能力が不十分な方を法的に保護し支援する目的で誕生したのが成年後見制度です。

かつては禁治産制度や準禁治産制度があり、家庭裁判所が宣告することで後見人や保佐人がつけられていました。しかし宣告されると禁治産者になったことを戸籍に記載されたり、禁治産者という名称が差別的な印象を与えたりすることから、利用しづらい制度だったのです。

そこで、民法改正で成年後見制度が制定され、2000年に施行されました。成年後見制度では以下の3つの理念を大きな柱としています。

  • 自己決定の尊重
  • ノーマライゼーション
  • 残存能力の活用

自己決定の尊重とは、本人の意思を尊重しようという考え方です。ノーマライゼーションとは、多様性を認め特別なグループとして社会から隔離するのではなく、地域社会の一員として通常の生活が送れるように環境を整えていこうとする考え方のことを指します。
また、残存能力の活用とは、判断能力が不十分だとしても本人が持っているその他の能力を最大限引き出そうとする考え方です。
このように成年後見制度には、一人ひとりを思いやり、サポートする気持ちが込められています。

成年後見制度と介護サービスの関係について

最後に、成年後見制度と介護サービスとの関係について考えていきましょう。
実は成年後見制度と介護保険制度のスタートは同じ2000年で、今後想定される少子高齢化社会を見据え、高齢者を支援する目的で制定されたといっても過言ではありません。

たとえば、身寄りのない高齢者が認知症になって判断能力が不十分になった場合を考えてみましょう。判断能力が不十分だと、介護サービスの利用契約や施設への入所契約、入院手続きなどがスムーズにできない可能性が極めて高くなります。その場合、成年後見制度を利用することで本人をサポートすることが可能です。

実際に成年後見制度でよく行われている内容には、預貯金の管理や介護保険契約、病院への入院手続きなどがあります。元気なうちは、本人もそのご家族も「成年後見制度は自分には関係ない」と思っている方も多いでしょう。しかし、いざというときに権利を行使できず不利益を被るのは利用者さん本人です。また、利用者さんのご家族や親族、介護施設や病院の職員などにとっても、ご本人の意思が確認できず手続きや契約が滞るような事態になれば、十分なサポートができないケースもあります。

将来的にどういったことが想定されるのかを利用者さんやご家族に具体的に説明すると、成年後見制度の必要性を理解してもらいやすくなります。

判断能力が十分にある方の場合は、任意後見制度があることを説明し、万一に備えるようにアドバイスするのも良いでしょう。そうすれば、利用者さんが信頼する方に自身の思いを託すことができ、利用者さんの意思を尊重できるようになるからです。

厚生労働省では、介護サービス利用者やそのご家族が成年後見制度について考えるきっかけとなるチラシやパンフレットを配布しています。こういった資料を施設に置いて、ことあるごとに説明する機会を持つのも良いでしょう。

成年後見制度とは介護サービスと切り離せない関係

介護サービスと成年後見制度とは、とても深い関係にあります。利用者さんが必要に応じて成年後見制度を利用すれば、信頼する方に財産や今後の生活を託すことができるからです。ただ、成年後見制度に関して知らない方も多いため、日頃から勉強会やセミナーなどを開催して、介護スタッフはもちろん利用者さんやご家族にも情報発信するようにしましょう。

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